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116夜 The Flat Earth / Thomas Dolby

アルバム1枚分の時間だけオープンする音楽バー<T’s BAR>

トーマス・ドルビーというと、印象深い思い出があります。
美大の学生だった時、20世紀音楽の授業で、教授が「新しい音楽を紹介しよう」と言って持参されたレコードをかけたのですが、それがトーマス・ドルビーでした。
曲が流れてすぐ、教室の前の方にいた学生が「先生、回転数が違います」と指摘。
先生は、12インチシングルをLPと同じ33回転でかけていたんですね。
レコードのサイズと回転数と音質の関係は、調べていただければ分かると思いますが、当時ならではの間違いで、微笑ましく思い出されます。

デビュー・アルバム「The Golden Age Of Wireless」は、衝撃的でした。
エレ・ポップでダンサンブルなのに、能天気なパーティー・ピーポーでは無くて、知的な感じがしたのです。
(日本タイトルの「光と物体」は、どういう意味だったのでしょう?)
シングル・ヒットした「She Blinded Me With Science」(日本タイトルは「彼女はサイエンス」。こちらも意味不明・・・。)は、今聴いてもレトロなエレ・ポップとして十分聴けます。
当時は、全然ワイヤレスな世の中ではありませんでしたので、今の時代にこのタイトルのアルバムを聴くのは、預言書を開くような楽しさがあります。

でも、今回、選曲したのはセカンド・アルバムの「The Flat Earth」です。
これは、エレクトロなキーボード・プレーヤーが作ったとは思えないほど、ファンキーでロックで肉体的な刺激のある音楽でした。
ベースとギターの音の入り方がカッコよく、リズム・ボックスやエレクトリック・ドラムを使っていても、単調な打ち込みにならずに、グルーブ感があります。ボーカルやコーラスの入り方も、音楽マニアのようなセンスを感じます。

1曲目の「Dissidents」で「かっちょえー!」となって、そのまま中盤まで一気に連れていかれると、後半にスロー・ナンバーを置いて音楽的な幅の広さを見せつけ(聞かせつけ?)られます。
そして最後、取ってつけたように配置された「Hyperactive!」は、まさにハイパー・アクティブ!
当時「未来のモータウンはコレなんじゃないか」と感じましたし、今でも、クラブとかで大音響で聴きたいくらいです。
35年近く昔の曲ですが、若い人はどう感じるのでしょう。興味があります。

トーマス・ドルビーさんは、その仕事のわりには評価が低いような気がしています。どこか、一発屋な印象もあるのかもしれません。
革新性という点では、デビュー時のようなインパクトを維持することはできませんでしたが、実はその後の作品もセンスが感じられて悪くないのです。
デビュー前には、フォリーナーの大ヒット曲「Urgent」や、デフ・レパードの大ヒット・アルバム「Pyromania」で、キーボードを弾いています。
ロジャー・ウォーターズの「The Wall」ライブで、シンディ・ローパーと一緒に「Anothe Brick In the Wall」を演っていたハゲチャビンの仮装オヤジは、トーマス・ドルビーさんですね。
その他、ネット事業に手を出してみたり、ゲーム音楽やったり、才能を持て余している感じです。

大学生の時に感じた、未来のモータウンは訪れませんでしたが、当時をリアル・タイムで経験した世代としては、彼が登場した時のインパクトと先進性は、今も輝きを放っていると思えます。