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147夜  Music Is Our Friend / King Crimson

日本ツアーのセットリストやレポートを目にするたびに、「やっぱ、行っちゃおうかな」との思いに悩まされています。
で、11月に発売された直近のライブを聴いているわけです。

この音源は 2021年9月の北米ツアーということなので、今回の来日公演と基本的なコンセプトは同じです。
もちろん ライブでの演奏曲や曲順は毎回変わっているようですが、新譜の発売に合わせて行われるツアーとは違って、これまでの集大成であり、ファンへの感謝還元的な内容になっています。

60-70年代のキングクリムゾンは、凶暴な狂気と同時に抒情的でメランコリックな面もありました。
この頃の楽曲は必ずしもエレキ・ギターが全面に出ていたわけではなく、メロトロンや管楽器が重要な役割を演じ、アンサンブルはもちろん、メロディや歌詞にも魅力がありました。
バンドの初期において、イアン・マクドナルドさんが果たした役割は大きかったと思われ、私が好きになったのもそうした要素だったと思います。
イアンさんが去った後も、ゲストのキース・ティペットさんや メル・コリンズさんの加入などで、哀愁漂うメロディは失われず、ジョン・アンダーソンさんのヘルプなどのカンフル剤も上手く効いて、続く作品でも深い感動を与え続けてくれました。
キング・クリムゾンの闇が深く濃くなるのは5作目からで、徐々に救いのない狂気に陥ってゆきます。
個人的に好きな ビル・ブルーフォードさんのドラムと ジョン・ウェットンさんのヴォーカルが聴ける7作目の「レッド」まで、70年代のキング・クリムゾンは、バンドとしては全く安定していないにもかかわらず、唯一無二の音楽を創造し続けていました。

今回のツアーでは、この70年代の曲がかなり演奏されています。
このアルバムでも、半数弱がこの時代の曲になっています。

解散を経て再結成された80年代のキング・クリムゾンを代表するメンバーは、ベースのトニー・レヴィンさんとギター兼ヴォーカルのエイドリアン・ブリューさんでしょう。
当時、ミュージシャン界隈で人気のあった優秀なアーティストだった二人を得て、新生キング・クリムゾンは3枚のアルバムを発表しました。
しかし、アバンギャルドではあったものの、プログレの抒情性が無いロック・サウンドに、デビュー当時からのファンの多くは落胆したことでしょう。
この時代、MTVが生まれ、ダンスが音楽に影響を与え、音楽産業が巨大化する中で、キャリアのある多くのバンドやアーティストが、音楽の方向転換を求める圧力に屈してゆきます。
ロバート・フィリップさんは、キング・クリムゾン名義ではない活動もしていましたし、このバンドはフィジカルな魅力もありましたので、むしろ キング・クリムゾンを名乗らない方が評価を得られたのではないかと思えてなりません。

90年代、2000年代になると、キング・クリムゾンを聴いているのは、限られたファンだけになったように思えます。
一方で、マーズ・ヴォルタなど、クリムゾンのDNAを受け継ぐような若い先鋭的なバンドがあらわれだしたりして、80年代とはまた違った状況が生まれていました。
ヒップ・ホップ系のカニエ・ウェストが「21世紀の精神異常者」をサンプリングしたのも驚きでした。
メジャーなチャートでキング・クリムゾンが話題になることは無くなってしまいましたが、しかし、この時期のクリムゾンは悪くないのです。
クリムゾン王の凶暴さはパワーアップして、色彩をもたらす光も命をつなぐ温度も何も無い、硬く重い暗黒の世界が繰り広げられます。
(ただ、ライブはロック・バンドのような躍動感があったような・・・。)
私世代のリスナーは、年齢のせいでハードでヘビーなものを聴き通すのが厳しくなってしまったのですが、しっかり音と向き合うと、昔のように感情に働きかけてくる迫力があります。

2010年以降は新譜は出さずに、企画盤を作ったり、ライブをやったり、奥さんとおかしなYoutube動画をあげたり、というロバート・フィリップさんですが、なんだか、この人も人間だったんだなぁと思うこの頃です。

アルバムは全19曲、2時間15分。
聴きごたえはあるものの、意外と一気に聴き通せてしまいました。
日本公演も、きっと素晴らしいものだったことでしょう。

いつか死ぬまでに時間を作って、スタジオ・アルバムを全部通しで聴いてみたいと思ってます。