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お金は腐らないから
「これをとっておきなさい」
離婚をした私に母が手渡した通帳。
5歳の息子を連れて実家に戻ってきたのだった。
これからの人生に失望している私にとって、その手渡されたお金は生きていくためには必要なお金だった。
しかし、情けないし惨めだ。
たかがパートで働いていた十数万円の貯金しかなく、実家を頼って生活する。
私は、離婚した惨めな気持ちと息子には元気なお母さんを見せなければという気持ちが交錯していた。
「これは孫にあげるお金だから、利率のいい良い保険に入れて10年寝かせなさい。」
母は大金を孫にくれるという。いくらなんでも大金すぎる。これは母の老後の資金なのだから私はありがたい言葉だけを頂戴し、母へ返した。
とにもかくにも、働かねば生きてはいけない。
就職活動のかたわらネットビジネスでも始めようと、私にでもできるサイトを探した。
『カンタン』『初心者』『スマホのみで高単価』
怪しいサイトばかりだった。
ふと、あるサイトに目が止まった。
“節約は無理せず楽しく!”
カレーを全部よそったあと鍋肌に付いているカレーをカレースープにして一品作る。
松ぼっくりを拾って、クリスマス前の時期にメルカリで出品する。
海岸沿いの砂浜に落ちているシーグラスを拾ってアクセサリーを作る。
『私もこんなアイデアを持っていることに気がついた!』
節約生活がお金になる。そのことに気がついた私は、自分のアイデアをもとに徐々にではあるが、ひとつふたつと商品が売れ始めていった。
着物や浴衣、子供服をリメイクすることが楽しかった。
私にもできるんだと自信がついて、就職も決まった。
二足のわらじでも、息子とアイデアを出し合って楽しかった。息子も意欲的でどんどんアイデアを話してくれる。
離婚をした暗い表情の私はもう、そこにはなかった。
ある時、これからの息子の学費をどうするか頭を悩ませていると、母からあの一度断った大金を差し出された。
もう母が、保険に入れた状態でのお金になっていた。
「このお金は腐らないからとっておきなさい。これは絶対役に立つものよ。これを10年寝かせて、“無いお金”だと思いなさい。あなたが今一生懸命に働いていることを、子供はきちんと見ているわ。それで10年がんばったら、私からあなたへそのご褒美としてこのお金をあげる」
なんともその母の豪快さには、仰天するばかりだ。
「お母さん…ありがとう…じゃ、息子の大学資金にでも使わせてもらうよ。本当にありがとう」
母の寛大な心に、私もそういう母になりたいと思うのであった。
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