[スペインの最も美しい村 #1] ラ・アルベルカ
永遠とも思えるような広大な緑の大地の中、車を走らせる。
5月に入ると、スペインの内陸部はどんどん暑くなり、太陽が眩しすぎてサングラス無しではいられない。車の窓を開けると生暖かい風が勢い良く入ってきて、髪の毛を舞い上げる。風に混ざって緑の香りが顔に当たる。
大地の中を駆け抜けていく時、スピードがとても遅く感じて、果たして目的地に着けるのかふと不安になる。その反面、このまま着かなくても良いかなという不思議な気持ちにもなる。
村めぐりが趣味の我が夫婦。
向かうは、カスティーリャ・イ・レオン州サラマンカ県の山の中にある人口1100人の小さい村だ。
視界に少しずつ木々が見え始める。どんぐりの木だ。
道路の両脇がついには林になり、森になった。目的地へ導かれるように、車は前へ前へと走り抜けていく。
山の中に突然現れた村。これがラ・アルベルカの村だ。
幾何学模様の木組みの家が立ち並び、過去へタイムスリップしたような気持ちになる。これが村を巡る面白さだ。
ラ・アルベルカの都市構造は、入り組んだ迷路のような秘密の通りから、ユダヤ人街であると言われてきた。実際に、時代の流れと共に、キリスト教から、イスラム教、ユダヤ教と歴史の交差点にあったこの村は3つの宗教が何世紀にもわたって融合してきた村と言われている。
実際のところは日本でいう隠れキリシタンのような、宗教同士の争いや抑制もあったそうだ。家の玄関には、目に見える信仰告白の意味を込めた碑文やサイン、宗教的なアナグラムが見てとれる。しかし自分がキリスト教ではなかったとしても、改宗をしたかのように見せかけ、生きながらえるために十字架を掘っていた家々もあるという話を地元の人から聞いた。
どこにでもある宗教問題がこんな小さな村でも起きていた事を知る。
悲しい歴史とは裏腹に、村の近くで見つかった何千年前の化石。今でこそ、発掘現場から持ち帰る事などは出来ないが、見つかった当時は何の規制もなく、村人が持ち帰ってきて、自宅の壁に埋め込んでしまうという発想が面白い家もあった。
外は暑く、常に日陰を探しているのに、どうしても石造りの1階部分の上にある木造構造が気になって、どうやって長い間これを維持してきたのかが気になり、足を止めては眺めるを繰り返していた。
歩いていると生ハム屋や、加工肉の倉庫などがたくさんある。野生の香りがふわっと鼻を過っていく。半分開いてる扉を除くと、沢山のハムがぶら下がっていた。
ここは、生ハムの生産地としても有名なのである。来る途中に通り抜けてきたどんぐりの森は豚の飼育場でもあるのだ。
事前に予約していた生ハム屋で簡単な講座と食べ比べをしてから、そこで食事をすることにした。
6種類とも味が全然違っていて、それぞれが美味しいが好みの生ハムを見つけることが出来た。ベジョータという最高ランクの生ハムは噛みしめるとナッツの香りがふわっとして、甘みがある。そして上質な脂だけに、すぐに口の中でとろけてしまう。
もうお腹がいっぱい。
これにワインまで注文して、昼からほろ酔いでいい気分。
帰りは、何かお土産でもと民芸品店へ立ち寄った。
刺繍の入ったタオルを見つけた時、とても興味が湧いた。
村の民族衣装にも用いられる刺繍だそうで、柄によって意味合いが異なり、この技術は母から娘へと受け継がれている村の民芸品なのだそう。一針一針紡いていく刺繍は、この村のようだった。何の生き物か分からない柄が、色んな宗教が入り混じって紡がれてきた歴史の中で生きてきた、何者でもないような村の人そのもののような感じがした。
残念ながら現金のみの支払いで、カードと少しの小銭しか持ち歩いていない私には買うことが出来なかった事が悔やまれる。現代に対応していないところもまた村を訪れる醍醐味なのだろう。
村を訪れる時には、現金は必須なのだという事を知った。次の村では、現金を握りしめて行こうと思う。
色んな歴史が交差して出来上がったアルベルカの村。昔から受け継がれる伝統を感じながら、生ハムに舌鼓してはいかがでしょうか。
更にもっと詳しく村の様子を知りたい方は動画も作成してますので、こちらもどうぞ。↓
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