暗闇で聞く打ち明け話の味

朝が来るまでそばにいる/彩瀬まる

雨の降りそうな湿度の高い夜に、布団の中で天井を見ながら聞く打ち明け話のような物語だった。

打ち明け話をするなら夜、というイメージがある。今みたいにアルコールの力を借りるという手段が取れなかった頃から、内緒の恋バナは修学旅行の夜だったし、進路の相談は習い事の帰り道だった。

この本に出てくる物語は昼間の公園でサンドイッチを頬張りながらするような話ではない。普遍的な登場人物に普遍的な事象が発生する話は一篇もなく、どれも生死や夢現の境を漂っている。だからこそ「こんなこと言っても信じてくれないかもしれないんだけどさ」と前置きして、登場人物たちがポツポツ話す様を聞いているような気持ちになる。

自分の視点で自分の人生だけ見ていると、自分だけがくだらなくて変わっていて、みんながうまく乗りこなせていることに右往左往しているように感じてしまうことがある。

でもきっとそんなことはなくて、みんないろいろなことに振り回される中で、迷ったり間違えたりしながら少しでも自分にとっていい方に向かおうとしているのだと思う。

基本的には結末でも「いい方に向かえたのかどうか」が明示的に書かれていないのだが、最後の「かいぶつの名前」は主人公によかったね、と声をかけたくなるような結末で、それまでが辛い展開だっただけにとても印象に残った。主人公と同じものはわたしの中でもうごめいていて、それに嫌気が差す時も多々ある。

「でもね、生き続けていたら、いつか、あなたが許せないあなたのなかの怪物を、許してくれる人に出会えるから。あなたが誰かの怪物を、許してあげられる日がくるから。」

荻倉先生の言葉に頷けるほどわたしはまだ達観できていないけど、自分の近くにいる人に潜む怪物を見ても、軽蔑せずに許せるようになりたいと思った。

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