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私の100冊⑤~学問篇①~

私の100冊も第5回になりました。前回の記事はこちらです。


今回は学問篇①です。勉強なんて嫌い! と言う人は多いですが、それは「一定期間内に一定のことを暗記しなければならず、それをテストされて失敗すると不利益がある」状況が嫌いなだけ、ということも多いのではないかと思います。単に知るだけなら、たいていのことは楽しい。それでは行きましょう。


29.数学ガールの秘密ノート(結城浩、SBクリエイティブ)

大人でも「数学が嫌い」「数が嫌い」と言う人は少なくありません。私も以前はそうでした。仕事でちょっとした計算をしなくてはいけないときは(電卓を使っていいにもかかわらず)つらい気持ちでした。ただ、学生時代にどこかの時点で数学に挫折したことをもって、それまで理解したものまで「嫌い」「わかんない」と言ってしまうのはもったいないなあと思います。「なぜ解くのかわからない問題をひたすら解かされて、解説を読むと自分では絶対思いつけないことが書いてあって嫌になる」つらさは非常によくわかります。でも本書は「数学って美しいな」「かっこいいな」「ここから先はわからないけど、ここまでは確かにわかるぞ」と思える物語です。以前「全部わかることは絶対ないのに買ってもいいのかな」とTwitterで呟いたら知らない人に「全部わからない本は買っちゃいけないの?」という趣旨のリプをもらって本当にそうだなあと思って買って面白かったので、皆さんにもシェアします。『数学ガール』と『数学ガールの秘密ノート』の2つのシリーズがありますが、もし数学に苦手意識があるなら『秘密ノート』から入られるのがいいかなと思います。


30.フェルマーの最終定理(サイモン・シン、新潮社)

本書は実は『数学ガール』よりずっと前に読みました。フェルマーの最終定理をめぐる数学と数学者の話です。フェルマーの最終定理は、すくなくとも最初に書いてある問題は中学生でも理解できるんですが、数百年間多くの天才が挑み誰も証明できなかったというものです。すごくないですか? ちょっと見たら自分にもできそうなのに何百年も誰も解けなかったんです。基本的に数学の知識がなくても理解できるように書かれていて、数学者たちのドラマがとても感動的です。「数学なんて、どうだっていい。自分には関係ない」と思っている人にこそ読んでほしいと思います。アンドリュー・ワイルズが証明に挑むところは、「がんばれ!あきらめちゃだめだ!」「もうちょっとだ!!」と声援を送りながら読みました。


31.クリティカルシンキング 入門篇: あなたの思考をガイドする40の原則(E.B.ゼックミスタ、J.E.ジョンソン、北大路書房)

人間は「自分の考えはニュートラルで、前提なしに思考することができる」と思ってしまいがちですが、どんな人も実はけっこう先入観やバイアスを前提に思考している、ということが書いてあります。「人間はこういうふうに考えがち」と知っておけば、たとえば「自分が犯罪に遭わないと思って安心したいから被害者に落ち度があったせいにしたくて、被害者を責めようとしてるんじゃないかな?」みたいに考えやすくなり、その分だけニュートラルに近づけるのではないかと思います。ある種の優しさは知識がないと持てないんですよね。メタ認知を自分の視点として持つためにいい本です。


32.百合のリアル(牧村朝子、小学館)

「「レズビアンという概念と、牧村朝子という事例」を通して、男とか女とか、同性愛者とか異性愛者とか、オタクとか優等生とか、B型とかAB型とか、色々ザクザク切り分けられてるこの状況との、向き合い方を見つけるための本です」と「はじめに」と書いてあって、実際そういう本です。セクシャルマイノリティという言葉を最近よく聞くけど何だろう……? と思ったとき読む本としてもおすすめ(というか、私も知識が足りてないですが)。「目の前の相手を大事にすることが大切」ということが書いてあるんだと思いますが、しかし知識なしに「とにかく大切にすればそれでいい」だけでもだめですし、その両方がカバーされていてとてもいい本だと思います。ちなみに私が読んだのは増補版ではない方なんですが、今回は増補版のリンクを貼っておきました。


33.利己的な遺伝子 増補新装版(リチャード・ドーキンス、紀伊國屋書店)

とても有名なのでタイトルを聞いたことがある人も多いと思いますが、誤解の多い本でもあります。すくなくとも「遺伝子に利己心のような自己意識がある」とか「人間は遺伝子に支配されているので自由意思はない」とか「遺伝子がそもそも利己的なので人間も利己的に振る舞ってよい」といった内容はまったく書いてないし、むしろ「そんなことはない」と書いてあるのでまずは読んでください。「自分は文系だし」と考えて読まずにいるのはもったいない、とてもエキサイティングな本です。


34.完訳ファーブル昆虫記(J.H.ファーブル、岩波書店)

昆虫記でおなじみのファーブルが進化論の反対者だったことはよく知られています。その理由は「生物はきわめて巧妙な行動をする。中には連続して行われる行動のどれか一つ失敗しただけで致命的なものもある。これが『ちょっとずつ上手くなっていった』という漸進論で説明できるはずがない」というものだったようです。なるほど。私は進化論を信じていて、子供の頃大好きだった虫取りも今は行いませんし殺虫剤も使いますが、それでもファーブルの観察を読んでいるとわくわくします。いつか文明が地球環境を破壊し尽くして人類が無菌状態のカプセルの中でかろうじて生存するような世界になったとしても、そのときこの本が残っていたら子供たちはきっと読むでしょう。そしてファーブルがじりじりと日に照らされながらハチの生態を観察するところに私と同じようにわくわくするんじゃないかと想像したりします。


35.脳の見方(養老孟司、筑摩書房)

『バカの壁』が大ベストセラーになった養老さんがかなり前に書いたエッセイ集です。ゲーテの『ファウスト』やモンテーニュの『エセー』について書いたところなどとても面白いです。養老さんの本は小学生から中学生の頃にけっこう読んで、文体にけっこう影響を受けた気がしていたんですけど、その後いろいろ本を読んで影響の跡がみられなくなってしまいました。それでも「都市にあるのは人間が考えて作ったものばかりであり、その意味で脳が外に出たものである。このため現代人は他人の脳の中に住んでいる」のような発想は私の中に生きているような気がしないでもないです。


36.「科学としての法律学」とその発展(川島武宜、岩波書店)

大学で法律を勉強していたことがあるんですが、法律学を学ぶ学生なら(おそらく)多くの人が思うのは「法律とは詭弁の技術に過ぎないのではないか?」ということです。もう少し穏当な言い方をすれば「結論が決まっていて、それを理論武装するために法律があるのではないか?」「法律を解釈するとは何か、またひとつの解釈が他方の解釈より妥当であるといえる根拠は法律の内部に存在しているのか」となりましょうか。本書はこの問題について検討したものです。条文の知識が必要なわけではないので法律を学んだ経験がない人でも読めると思います。法律って色々な角度から面白いので、ぜひぜひ勉強してほしいと元法学徒(できれば現在も法学徒でいたい)としては思います。


年内に50までいくでしょうか(弱気)。引き続きよろしくお願いします。ではまた次回。

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