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『飲みに誘ってくれたはいいけど全然しゃべってくれない』の回

そんなに仲の良くない同僚に飲みに行こうと誘われたことがあった。あまり気乗りはしなかったが、仲が悪いわけでもないので行くことにした。まさか誘われるとも思っていなかった人物からのお誘いに、何か話したいことでもあるのかなと考えながら繁華街へと向かう。適当な居酒屋を見つけて店に入り、とりあえずビールを頼む。ホンマにとりあえずのビール。ビールが届いてとりあえずお疲れの乾杯。ホンマにとりあえずのお疲れ。そしていざ飲みが始まっても、向こうからは何も会話を始めてくれない。だからこちらからとりあえず「最近どう?」的な近況を聞く。ホンマにとりあえずの近況。この世はとりあえずに満ちている。なんやかんやで会話が一旦終わる。二人の間に訪れる沈黙。向こうから話し出そうとする気配は微塵も感じられない。再びこちらから話を振る。終わる。またもや沈黙。向こうから話し出す素振りはなし。話を振る。終わる。沈黙。・・・。なにこれなにこれ? おれなんか試されてんの? 誘ったのはそっちだよね? 普通に気まずいんだけども。なんで何も話してくれないんだろう。もしかして最近ハンターハンターでも読んだ? ハンター試験編のクラピカの「沈黙!!」にでも影響を受けて実践してんの? ここではその行為は正解じゃないから。

正直、こちらサイドは相手との関係をこちらからは誘わないぐらいの仲だと判断している。なぜならそれほど仲良くはなく、飲みに行くと今のこの状況のように気まずい空気になるとだいたい分かっていたから。それでもそっちはわたしと二人で飲みに行って盛り上がる勝算があったから声をかけたんじゃないのかね? いやいや、もちろんそんなめちゃくちゃ面白い会話をしようとか、もてなしてほしいとか、完全にゲスト気分で来ている訳じゃないけど。こっちも会話を弾ませようと努力するつもりだし。でもさあ、そもそもわたしは会話を弾ませようと努力しなければならないと思う人とはサシ飲みしようとは思わんわけよ。そっちが飲みに対してどういう思想を持ってんのかは知らんけども。とはいえ現にさっきからほとんどこっちしか喋ってないやん? 間が空くのを恐れたこちらサイドがマシンガントークを飛ばしちゃってる現状やん? でもそれも流石に無理あるやん? こうやって一旦の凪の時間はどうしても訪れるわけよ。ていうかこの凪の時間になんでそっちが気まずそうにしてんねん。なんならちょっと退屈そうやんけ。どういうつもりやねん。そっちも会話する努力をしろよ。なんでこっちが誘ったみたいになってんねん。なんで気になる子を勇気出して誘った初デートぐらい頑張らなあかんねん。普通にこの時間、意味分からんようになってきたわ。なにこの謎の時間? わたしは今なにを味わわされてんの? あかん、普通に家に帰りたい。辛い。その、そっちが退屈そうにするのやめろ。『気まずいわあ』みたいな表情するのやめろ。腹立つから。窓の外の景色を見るな。腹立つ。ああ、やっと2時間が経過しようとしている。地獄みたいな時間やったな。ストレスで体感時間が狂ってマジで倍の4時間ぐらい経ったと思ったわ。よし、そろそろ店を出よう。解散、解散。帰ろ帰ろ。え? 二軒目行くの? なんでぇ?


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