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『20歳までに金縛りにあわなければ一生あわないって宇多田ヒカルが言ってた』の回

昔、なにかしらの音楽番組で宇多田ヒカルが、20歳までに金縛りにあわなければ、それ以降はもうあわないみたいなことを言っていた。わたしはなんとなくこのことをずっと覚えていて、自分が20歳の誕生日を迎えたときに『ああ、ついに今日まで金縛りにあわんかったから、今後も大丈夫やな』なんてことを思った。宇多田ヒカルの言葉を信じるのであれば、わたしはもう一生金縛りにあわなくて済むのだ。これは非常にありがたいことであり、わたしはもう霊的なあれが大変苦手でして、小学生とか中学生のころに誰かが「みんな! おれんちで部屋真っ暗にしてホラー映画見ようぜ!」みたいなことを言い出しても、そんなしょうもない誘いにはマジで一切乗らなかった。『しょーもなっ! スマブラとかやるほうがおもろいやろ。しょーもなっ!』と強がっていた。だから「呪怨」や「リング」、「仄暗い水の底から」みたいなタイトルなどのホラー映画は一回も見たことがない。「仄暗い水の底から」みたいなものに関しては、なんかこんなタイトルだった気がするといった感じで、正確なタイトルは覚えていない。もう怖くて調べられへんから、多分こんなタイトルだった気がするということで、もうよろしいでしょ! もうタイトルなんかなんでもいいでしょうよ! ええ!? しょーもないっ!

っていうことで、幸いにもこれまでの人生で金縛りにあったことはないけれど、夜中に足がつって目が覚めたことはある(別に金縛りと足がつるのは同じグループでもなんでもない)。記念すべき第一回目は中学生のときのこと。足がつってから目が覚めたのか、目が覚めてから足がつったのか、順番はよく分からないが、感覚としては夜中に目が覚めて、そうすると足の親指辺りがズクズクしてきて、それが次第に大きくなってきてふくらはぎビーンッ!みたいな感じだった。DJがツマミを回してズックッ、ズックッ、ズックッ、ズックッ、ズックッっとビートがだんだん大きくなっていく感じ。そう、そんな感じ。足がつることそれ自体は、父親が夜中に突然「スーッ!スーッ!スーッ!」と声にならない息を吐きながら目を覚ます光景を幾度か見てきたから、自分がつった際にも寝起きながら『これが足がつるっちゅうことかえ!』と割りとすんなり受け入れることができた。そうするとなんだかよく分からないが、初めて足がつったことによりテンションが上がってしまい、そこまででもないのにわざわざ「痛い!痛い!痛い!痛い!」と大きな声を出して騒いでしまった。周りで寝ていた家族はその声に驚いて目を覚まし、母親なんかは「どうしたん!?」とわたしの元に駆けつけてくれた。「いや足つったわ!」とクゥーッといった顔をしながら説明すると母親は「なんや、そんだけかいな。大袈裟やわ」と半ば呆れ気味に自分の布団へと戻っていった。あれ、マジでなんであんな急にテンションが上がったんやろう? なんであんな大きい声で騒いだんやろう? 今振り返ってみても、自分でもちょっと面白いくらいよく分からない。なんか楽しかったんやろうな、多分。この足つり初体験以後の数回はまだ、足がつりそうな前兆であるP波の到来を感じると『キタキタきたキタァ!』とワクワクしていたのを覚えている。当時のわたしは何かがおかしくなっていたのだろう。今じゃあ足がつるなんて微塵も楽しくなんかなくて、つったときには「スーッ!スーッ!スーッ!」と気づけば父親と同じ喘ぎ方をしながら痛みに耐えることしかできない。あの、夜中にひとり目が覚めてスースー痛がるときの虚しさよ。マジでなんも楽しくない。さらには日ごろの運動不足がたたって、覚醒状態においても足の親指をグッと上げ、反対に人差し指を下げるようにして力を入れただけで簡単に足がつるような体になってしまった。

ここで話は再び金縛りへと戻るが、経験者によると金縛りにかかっている間はどうやら意識はあるようで、かかりながらも今まさに自分が金縛りにかかっている状態であると認識できるらしい。よく耳にするのは、自分の上に何かがのしかかっており、身体が動かせなくて苦しいといったもの。ここで考えたいのは、おそらく金縛りは夢の世界の出来事であり、一方で足がつるのは夢から現実世界に戻るためのある種の手続きであり、これをどうにかして活かせないかといったことだ。金縛りにかかっている間は身体が固くなっているかもしれないが、足の親指と人差し指ぐらいはどうにかして動かせるかもしれない。あらん限りの力を尽くして足の親指と人差し指にグッと力を入れることで足がつり、「スーッ!スーッ!スーッ!」と息を吐きながら金縛りから抜け出せるかもしれない。あいにくわたしは20歳まで金縛りにあわなかったから、この手法の有用性を自ら確かめることはできないが、もしもよく金縛りにあっていて苦しんでいる人がいたらぜひ試してみてほしい。まあ指グッ程度で足がつれるような運動不足気味の方限定ではあるが。それとともに、もし成功した人がいたら、金縛りからの足がつって「スーッ!スーッ!スーッ!」のジェットコースターのような一連の流れがどんな感じだったのかを教えていただきたい。感想、お待ちしております。


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