深谷公宣

大学で担当している映画ゼミの補遺として学生向けに書いた文章を改訂・転載します。

深谷公宣

大学で担当している映画ゼミの補遺として学生向けに書いた文章を改訂・転載します。

最近の記事

ラッセ・ハルストレム『ギルバート・グレイプ』(2021/6/2ゼミ)

居住環境についての発表者のペーパーで、田舎というキーワードが出ていましたが、このキーワードから見えてくるものがあります。 映画では、大きなスーパーができて、ギルバートが働くグロッサリー・ストアの客足が減少する様子が描かれています。これは、永遠に変わらないと思われていた田舎社会が、大資本によって変わらざるを得なくなることを表現しています。ハンバーガー・チェーンがやってくるのも同様です。 大資本によってでも、田舎社会は変わるべきなのか。 メリットとデメリットがあります。メリ

    • テレンス・マリック『ツリー・オブ・ライフ』(2021/5/26ゼミ)

      『ツリー・オブ・ライフ』の宗教モチーフを説明します。ゼミでは「難しい映画」だと強調し過ぎたかもしれませんが、実際は、キリスト教の知識があると、とても理解しやすい作品です。 発表者のペーパーにもあったように、樹木信仰は至る所に存在します。特にヨーロッパは昔、森で覆われていたので、樹木を祀るお祭りが各地域に見られます。 話をキリスト教に限りますが、キリスト教におけるtree of life(命の木)とは、神がエデンの園に植えた2本の木のうちの1本のことです。(『創世記』2章9

      • このnoteについて

         筆者が大学で担当している映画ゼミの補遺として、学生に送ったメールを転載しています。  補遺のメールを送るようになったきっかけは、2019年末に始まった新型コロナウイルスの流行により、対面のゼミができなくなったことです。専用掲示板への書き込みで議論するなど、文書でのやりとりがほとんど、という状況がしばらく続きました。その状況は数ヶ月で解消しましたが、当時たまたまゼミの運営が学生主導になり、教員の発言機会が減ってもいたので、文書での補遺という新たな習慣を継続し、メールを送ること

        • 相米慎二『夏の庭』(2021/6/9ゼミ)

          家、庭 現代は、自分の「すまい」を自分の手でどうメンテナンスするか、どうケアするかを考えず、その技術も知らないまま、外部委託で済ませてしまう時代になっているようです。 一方、映画『夏の庭』では、子供たちが自ら、家、庭のメンテナンス、ケアをおこなっていきます。その過程で、障子の張り替えや、ガラスの交換など、日本家屋のメンテ、ケアに必要な技術を知ります。 スイカを切るのに魚屋の息子が包丁研ぎの道具を持ってくる場面がありますね。これも、家庭で使われなくなってしまった技術に、子

        ラッセ・ハルストレム『ギルバート・グレイプ』(2021/6/2ゼミ)