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「ラノベで宗教の授業は成立するか」      『魔法科高校の劣等生』電撃文庫

今回のテーマは「ラノベで宗教の授業は成立するか」です。私たち宗教科の教員にとってキリスト教は身近な宗教です。しかし、生徒にとってみればその捉え方は様々です。キリスト教を素直に受け入れる生徒もいる反面、宗教全般に対して懐疑的な生徒もいるはずです。宗教の授業でもテストや成績をつけている学校であれば生徒も評価を気にして、表だってキリスト教を否定的に表現することもないでしょう。しかし、現代の日本において宗教を批判的に捉える人が多いのは周知のことと思います。その前提で、いかにキリスト教の精神を様々な社会問題と絡めて授業をするかということを考えた時に、どういったテキストを使うのかと悩まれる方もいらっしゃるでしょう。宗教を教える先生方は神学部を卒業してきた方もいらっしゃると思いますが、他教科教員出身の方もいらっしゃることと思います。

   そこで、今回は、1つの例として、一定数の生徒にとって身近な存在であるアニメ作品やラノベ小説を例題にとってみようと考えました。
 今回、紹介する本のタイトルは『魔法科高校の劣等生』です。ラノベらしく、魔法が使える世界という設定のお話で主な、舞台は日本。魔法を専門に学ぶ高校に通う魔法師兄妹が主人公です。という設定でいろいろと話は進み、やがて、世界を股にかけて活躍していくわけですが、私が注目しているのは、この世界の中における差別の描写です。

 宗教の授業の中で、様々な社会差別を取り上げることと思いますが、この小説は架空の世界ではありますが、様々な場面において「差別」が大きな問題の要因になります。そもそもタイトル自体に「劣等生」という言葉があります。あえて「劣等生」という言葉を用いているということは、読者に「優等生」の存在を想起させます。実は、主人公達が通う高校には一科生・二科生という生徒群がいます。一科生が優等生集団で、二科生が劣等生集団となります。それは入学試験の成績で区分さており、分かりやすいことに制服にもその違いがあって一目瞭然です。そのため、学内においても差別感情を要因として様々な問題が起きるわけです。最も、その中心にいるのは、魔法師兄妹の兄の方です。彼は劣等生という扱いを受けているわけです、それはあくまでも入学試験の基準で言えばということで、こと実践的な場面において、彼の魔法的技能は一科生をはるかに上回るわけです。また、その差別は一科生・二科生という構造だけでなく、一科生の内部において、あるいは二科生の内部において、そして、魔法を使えない人間と魔法を使える人間との間において様々な差別が描写されていきます。この本を読んだ私の感想としては「魔法」という概念を用いて、差別という問題をとことん追求しているように思えるわけです。
 どうぞ、興味を持てた方はラノベなんてと思わずに読んでみてください。それではまた。

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