ちいさなヘルプマーク
昨日、座席が埋まる程度に人の乗っているモノレールの車内で立っていると、私の真後ろの席に座っていた方から、席を譲っていただきました。
「どうぞ、座ってください。僕はもう次で降りますので、お気になさらず」
一瞬、自分が席を譲られたことに気づいておらず、また突然声を掛けられたことに驚いて満足にお礼も言えないうちに、その方は隣の車両に移っていかれました。
少し長くなりますが、よければ読んでください。
突然ですが、ヘルプマークをご存知でしょうか。
赤地に、白で十字とハートが入れられたマーク。
電車やバスの優先座席にも掲出されていますので、見かけたことのある方も多いかと思います。
このマークは、義足や人工関節、内部障害や難病を有している、妊娠初期である……というような、援助や配慮を必要としていることが外見では分からない人々が、配慮が必要なことを周囲に知らせることで援助を得やすくなるよう作成された、という経緯があります。
公的機関で配布されているラバー製のヘルプマークは、背面にシールを貼って、手助けしてほしい内容や緊急連絡先などを記載することも出来るようになっています。
実は私も、普段使っているリュックにこのマークを付けています。
私が付けているのは通常のヘルプマークとは少し違う、『過眠症マーク』という名前のキーホルダー。
丸いアクリルプレートに、眠っているヒツジとアウェアネスリボン、そしてヘルプマークがデザインされています。
こちらはNPO法人日本過眠症患者協会によって、ヘルプマークとのコラボ製品として作製されました。
大きさは縦横4.5cmほど。
通常のヘルプマークと比べると目立たない大きさです。
どうして私が、過眠症マークを付けているのか。
それは、私が特発性過眠症という睡眠障害だからです。
特発性は「原因が分からない」という意味で、ものすごくかみ砕いた表現にすると『原因が分からないけれど、めっちゃ眠くなって眠ってしまう病気』という感じでしょうか。
主な症状は、日中の過度な眠気。
突然眠気に襲われ、時・場所を問わず眠り込んでしまうこともあります。
経験上、同じ作業を延々繰り返しているとき、ずっと座っているとき、あるいは同じ姿勢で立ちっぱなしのとき(電車で立っているときみたいな)に眠気に襲われることが多いように思われますが、友達とわいわい話しているときでも眠くなるときはなるので、あくまで個人的な傾向です。
思い返せば中学生くらいから、過眠症の傾向はありました。
主に授業中の居眠りですが、夜にどれだけしっかり睡眠を取ろうとも、昼間には容赦なく眠気に襲われ、中間テストのさなかに眠ってしまったこともあります。
高校生になると電車で小一時間かけて学校に通うようになりましたが、降りる駅まで立っていても起きていることが出来ず、ふらふらして周りの人にぶつかったり、そのまま崩れ落ちそうになることもしばしば。
吹奏楽部に所属していましたが、合奏中にうとうとして、先輩に起こされることも。
大学生のときには、朝のラッシュで混雑したホーム上で電車を待っている数分足らずのうちに、人込みの中で立ったまま眠ってしまったこともあります。
恐ろしいのは、眠ってしまっていることに気づかない場合もあること。
気づいたら眠っていた、という状況です。
結局、社会人になってから(仕事中もやはり居眠りを連発していました)勤務先の上司に「居眠りが病的すぎるから検査してもらえ」と言われ、検査入院を経て特発性過眠症の診断が下りました。
現在は眠気を抑える(覚醒を促す)薬を飲んで、日中の眠気と戦っています。
しかし、薬も完全ではありません。
薬を飲んでいても、眠気に抗いきれずに眠ってしまうことがあります。
もしも、出先で眠り込んでしまったり、眠くて眠くてたまらなくて、どうしても座って休みたい状況になったとき。
周囲の人に理解していただくのに、少しでも役に立つかもしれないと、過眠症マークを鞄につけています。
冒頭の話に戻ります。
席を譲ってくださった方に、私は背中を向けて立っていました。
そのとき背負っていたリュックには過眠症マークがついていましたので、目の前に立っている私のリュックに付いている、このマークに描かれた小さなヘルプマークに気づいてくださったのでしょう。
座らないと倒れてしまうような緊急事態などではありませんでしたが、その方の優しさがとてもありがたかったです。
同時に、自分もそんな風に周囲に気遣いが出来るようになりたい。
そうも思いました。
ヘルプマークを付けている人の全てが、例えば電車ですぐに席を譲ってもらわないと大変なことに、というわけではないと思います。
でも、周囲の援助があった方が良い場合も、きっとあるでしょう。
ヘルプマークを付けていない人でも、体調がすぐれなくて、座らないと倒れ込んでしまいそうなときもあるかもしれません。
そのときに、私もさっと手を差し伸べられるようになりたい。
そんなことを思った、秋の始まりの夕刻でした。
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