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#17 ヨーロッパ研修記 〜ナチュラルワインへの問いとPacinaの答え〜
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ナチュラルワインって何だろう?
もしかすると今回の研修において、最も難易度、そして抽象度の高いテーマなのかもしれない。日本でもすでに一般化された言葉である一方で、掴みどころのない言葉。
その言葉を調べると、おおむね、有機農法と醸造プロセス、そして亜硫酸塩・二酸化硫黄(SO2)の有無に行き着く。だけど、その内容だけを読んでも正直いうとピンと来なかった。なぜなら "実際に" 何をやっているのかが、全くわからない。
だから、研修の最後は、今まで自分が通って来なかったワインをきちんと学びたい。原料となる葡萄そのものを、畑から作るつくり手を訪ね、その土地がどういう場所で、具体的にどんなことが実際に行われているのか。もっというとつくり手と、その考え方そのものまで、学びたかった。
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とはいえ僕自身はワインに対しての予備知識は少ないゆえ、友人に幾つかの情報や候補を教えてもらい、その中からPacina(パーチナ)というワイナリーに興味を持った。
数多あるワイナリーからPacinaに興味を持った理由はいくつかあるが、あるときを境にDOCGというイタリアワインにおける最上級の格付けから、意思を持って脱退したという話。さらに環境や農業に対しての考え方が、他のワイナリーと比べて明らかに異質に映ったからだ。(ヴィナイオータさんの記事に詳しいことが書かれているのでぜひ読んでいただきたいです。)
ある意味、権威的なものにとらわれることなく、どこまでも真摯に本質的な意思決定(その手の意思決定は往々にして困難を伴う)を下したPacinaに強い興味を持ち、おじゃまさせてもらった。
トスカーナ州は、キャンティ・クラシコの産地の最南端・カステルヌオーヴォ・ベラルデンガという村のはずれにPacinaはある。前日まで滞在していたフィレンツェからシエナ、そしてこの小さな村までバスを乗り継ぎ、ようやくたどり着くような場所だ。
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正直に言えばここにたどり着くまでに、いくつかの問題が起こり、体力的にも精神的にも珍しく疲弊しきっていたのだが、この風景を見た時にそんなものは一気に消え去った。
一面に広がる葡萄畑とオリーブ畑、どこまでも連なる小さな丘。まるで映画や絵本の世界だ。
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結局、4日間も滞在させていただいた。
村の中心まで20分も歩けば幾つかのレストランもあるが、Pacinaは食事も自炊で滞在するスタイル。一見不便に思えるかもしれないが、今回の目的を鑑みると本当に素晴らしい滞在になった。
というのも、"ナチュラル" を知る上で、つくり手の人たちと同じ時間を過ごし、同じものを見て、同じ匂いを感じたかったからだ。なるべく彼らが過ごす日常を少しでも感じられるような滞在をしたかった。
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当主であるGiovannaさんと夫のStefanoさんとも挨拶をさせていただきつつ、訪問までのメールのやりとりやワイナリーの案内はElisabethさんがとても優しく、丁寧に対応してくださった。
訪問当日は何の連絡もしていなかったのに、延々とスーツケースを引きずって歩いていた僕を、到着の時間を予測して、そっと車で迎えに来てくれたくらいだ。彼女はGiovannaさんとStefanoさんの息子の奥様で、とても流暢な英語と丁寧な説明で案内をしてくれた。
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どれだけ畑を自然な状態にしていられるか。
なるべく自然に任せる。介入をしない。水やりもしない。モノカルチャー(単一栽培)ではなく、葡萄以外の作物も育てることで、土地のバランスを保つ。さまざまな生物が生きる状態をつくる。
葡萄畑をゆっくりと歩きながら、Pacinaの考え方を教えてくれる。
それは、ワインという最終的な成果物に対してというより、さらに大きな枠組みについて。つまり未来に対して、持続していく自然の循環。
実際に彼女の言葉を借りれば、Our Job is for the future.
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Pacinaは、なんと1000年も前に修道院だった建物をワイナリーとして改築しながらワインをつくっている。そしてここはファミリーの住居も兼ねる。
葡萄を手で収穫し、果汁を絞った後は、大きなセメントのバレルで発酵をさせる。その後大小さまざまな木樽に移す。ただし、部屋の温度調整はしない。
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また自然な熟成を促すために、クリーンにしすぎることもない。蜘蛛は、ともすれば除去されてしまうような存在かもしれないが、健全な発酵や熟成を促す彼らは生態系そのもの。美味しいワインには必要不可欠な存在なのだ。だから、こうしてバレルの近くで生きている。(そう、これはランビックを作るカンティヨンと同じ思想、プロセス。)
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彼女は大切なことを、シンプルに教えてくれた。
”ナチュラルワイン” をググれば、確かに有機農法や亜硫酸塩の有無の話に行き着くし、その説明はもちろん間違ってはいない。
だけど、僕が想像していたよりも、その意味はずっと広義であり、哲学的だ。つまり全てのプロセスにおいて、自然の力を頼りにすること。Pacinaで学んだ僕自身の解釈と言葉で言うと、ワインを作るためではなく、自然があるからワインが作れるということ。だからPacinaは、自然からスタートする。
今回の僕の学びは多種多様な考え方の中の、一つでしかないと思う。だけど、今回Pachinaに滞在させてもらい、彼らの環境や農業に対しての、哲学、考え方、そして具体的な醸造のプロセスを知ることで、少なくとも自分なりのナチュラルワインに対しての基準を教えてもらった。
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最終日にGiovannaさんから一通のメッセージが届いていた。
「帰り道、村まで車で送っていくからいつ出発するか教えてね。お見送りさせてね。」と。
Pacinaのファミリーは、皆さんが滞在前のやりとりから、最後までとても暖かく、優しいおもてなしをしてくださいました。その人柄や優しさは、やはりワインで表現されるのだと思います。Pacinaにお伺いできて幸せでした。本当に素晴らしい時間をありがとうございました。
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salo Owner & Director
青山 弘幸
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引き続きお酒に関わる出会いやご縁を探しています。また応援のメッセージもとても嬉しいです。もしご興味を持っていただけたらお気軽にご連絡いただけますと幸いです。
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