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いい職場とは何か?

いい職場とは、人間関係がいい職場のことだ。

30歳のいち会社員のつぶやきに過ぎないが、私たちが感情を持った人間である以上、職場の良し悪しを決めるのは人間関係でしかない。
同じ職種であれば、どの会社でもやることは大体同じだ。やっていることのレベルの高低、扱っている商品などは細かい違いに過ぎない。結局はどれも似たようなゲームだ。

一緒に働く人が合うかどうかは、仕事内容とは比較にならないほど働きやすさを左右する。
そして、職場の雰囲気のよさ、つまりは働きやすさはほぼ全て上司によって決まる。もし上司が変わった、もしくは変わる予定があるなら要注意だ。昨日まで快適だった職場も、上司が変わったその日から全く別の場所に変わる可能性がある。たとえ上司以外のメンバーは同じだったとしても。それほどに上司というのは組織にとって重要なのだ。
しかし多くの管理職はそのことを自覚していない。上手くいかないことの原因を、現場のモチベーションやスキル不足、リソース不足だと勘違いする。そうではない、お前が原因なのだ。
どこの会社も社員の中身は似たりよったりだ。スキルや思考タイプが近いことが多い。適当に分けられた部署という単位で仕事をうまくいかせられるかどうかは上司にかかっている。無能な上司ほどそのことに気づかない。人が辞めたり、成果が出なかったりすることの要因を的外れなところに求め続ける。震源地は自分なのに。

イケてない上司の下についてしまったら、そしてその結果として働きづらくなってしまったら、その職場を離れることが最も早い解決手段だ。もう一つ有効なのは、その上司が異動するか辞めること。でも上司がどこかに行くのを待っていると、場合によっては長きにわたって自分をすり減らすことになる。
とっとと逃げよう。悪い上司や悪い職場から。どこに行っても似たような仕事、似たような給料なんだから。

私は自分を特に経験豊富だとは思わないが、転職や複数社への出向を経て、平均よりはいろんな職場を見てきたと思う。働きやすさは人間関係で決まり、人間関係は上司で決まる、という結論に関しては今後揺らぐような気がしない。

話は少し逸れるが、パフォーマンスの低い社員を解雇したら業績が悪化したという話が一時話題になっていた。成果は出せていないが会社に長くい続ける人というのは、直接的な利益貢献はしていないものの、他の社員同士のハブのようになって円滑なコミュニケーションを促していた、みたいなことらしい。そういう人がいなくなると、たちまち職場がギスギスする。

この話の典型例みたいなことが私の過去の職場でもあった。
その人は、信じられないくらい仕事ができなかった。当時、ほぼ新人だった私から見てもそのできなさは群を抜いていた。でも、面白さも群を抜いていた。オフィスに響き渡る大声で独り言を言い続け、何回読んでもよくわからないメールを社内外に送っていた。みんな笑ったり呆れたりしていた。また〇〇さんがやってるよ、という感じで。
当時の私は常に忙しかったが、特に余裕がない日があった。大量のメールとチャットに返信しながら次の会議の資料を大急ぎで仕上げねばならず、分単位どころか秒単位で時間が惜しいような感じだった。瞬きもせずPCに向かってタイピングを続けていると、例の抜群に仕事ができないおじさんが「ねえねえ」と話しかけてきた。至急の要件かと思い、私は顔を上げた。両手はキーボードの上に置いたままで。
おじさんは極めて真剣な眼差しで
「成城石井のいちごバターって知ってる?」
と問うた。私は、知らないですと答える。
新しい案件の相談か、今余裕ないから後回しになってしまうけれど、要件だけ聞いておこう、と思った。
「美味しいのかなあ」とおじさんは尚も真剣な表情で聞いた。
知らない。そもそも私はいちごバターを知らない。
「食べてみたいんだよね」と続けられた時にやっと、ただの雑談だということに気づいた。
こんな時に、何の話なんだ。仕事の話じゃないのか。見るからに忙しいのだから、今話しかけないでよ!と思った。
その時、どんなリアクションを返したのか覚えていないが、本当に余裕がなかったから冷たい反応をしちゃっていたかもしれない。
今となっては、メールよりも、資料の多少の出来不出来よりも、いちごバターの話の方が大事だとわかる。でも当時は未熟すぎて気づけなかった。

血眼でキーボードを叩く私は、側から見ていて息苦しかったのかもしれない。もっと力抜けよ、という気持ちで話しかけてくれたのか、純粋にいちごバターの話がしたかったのかはわからないし多分後者なのだけど、今の私だったらもっといちごバターの会話を続けたと思う。

そのおじさんは組織改変のタイミングで、地方の拠点に行かされてしまった。理由はもちろん、売上への貢献度が低いからで、新しい上司が勝手に決めていた。おじさんがいなくなると、これまで平和だった職場は修羅のように荒れ、忙しくも楽しかった時代が嘘のように変わってしまった。メンタルの弱い私はうまく食事ができなくなり、何キロか痩せ、最終的には職場を変えた。

おじさんが職場を去る直前、私とおじさんが一緒にやっていた仕事がやむを得ない理由でおじゃんになったことがあった。全然気にしていないのに、あとでワイロを送るからさ、とおじさんは謝った。おじさんがいなくなってからしばらくして、異動先の名産品が小さな箱に入ってデスクに届いていた。箱には熨斗がかかっていて、ご丁寧に「ワイロ」と印字してあった。
箱を見た私はしばらく動けなかったのを覚えている。

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