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2022.9.3 謎の反プーチン勢力登場…揺れるロシア

ロシアに反プーチン・パルチザン『国民共和国軍(NRA)』登場

先月下旬、プーチンのメンターであるアレクサンドル・ドゥーギンの娘のダリア・ドゥーギナが暗殺されたというニュースがありました。

この話で動きがあります。

『国民共和国軍(NRA)』が犯行声明を出したのです。

FNNプライムオンライン 8月22日(月) 19:46配信

“プーチンの頭脳”の娘 爆殺される犯行声明

ロシアのプーチン大統領の側近、アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘・ダリア氏が乗った車が、モスクワで爆発し死亡した事件で、ロシア国内の反プーチン勢力・国民共和国軍(NRA)が、犯行声明を出した。

犯行声明で、NRAは、
「プーチン大統領が民族戦争を起こし、ロシア兵を無意味な死へと追いやった軍事犯罪者だ」
と批判した。>

この『国民共和国軍』とは何でしょうか?

今の私も分かりませんし、誰も知りません。

犯行声明が出るまで、ロシア国民も含め、誰も聞いたことがなかったのです。

『国民共和国軍』の存在が明らかになった経緯は、どのようなものだったのか?

イリヤ・ポノマリョフ氏という元下院議員がいます。

彼は2007年から、『公正ロシア』の議員でした。

2014年3月、彼は下院議員で唯一人、『クリミア併合』に反対します。

そして、同年6月、彼はロシアを脱出。

その後、外国に住みながら、反プーチン活動を続けています。

そんなポノマリョフ氏が、ダリヤ・ドゥーギナ氏が爆殺された翌8月21日に動画を投稿しました。

ポノマリョフは動画の中で、誰がダリヤ・ドゥーギナ氏を殺害したのかを語っています。

殺害したのは、
「ナツィオナリナヤ・リスプブリカンスカヤ・アルミヤ(国民共和国軍=NRA)」
だと。

ポノマリョフ氏自身が、国民共和国軍を創った、もしくはメンバーだというのではなく、彼は国民共和国軍とメールなどの通信手段で交流をしています。

ポノマリョフ氏は、国民共和国軍から、彼らのマニフェストを読み上げる許可をもらったという、ここまでの話を動画で見ることができます。

ロシア語が分からなくても、英語の字幕が付いています。

興味がある人は、是非ご覧になって下さい。

国民共和国軍のマニフェスト。
長くなるので全部は書きませんが、マニフェストの本質は、
「プーチンは我々によって追放され、破滅させられる」
という部分でしょう。

要するに、国民共和国軍は、
「武力でプーチン政権を打倒する」
と宣言しているのです。

今まで、このようなことを宣言する団体は、ロシアに存在しませんでした。

ここから先は、国民共和国軍が誕生した2つの背景について書いておこうと思います。

敗れたナワリヌイの平和路線

これまで“プーチン最大の敵”といえば、アレクセイ・ナワリヌイ氏でした。

彼は、“ロシア一の政治ユーチューバー”でもありました。

チャンネル登録者数は約641万人です。

ナワリヌイ氏の戦い方は、プーチンと政府高官の汚職を動画で暴露し、そして、反政権デモを起こすやり方でした。

ナワリヌイ氏最大のヒットは、『プーチンのための宮殿』という動画です。

この動画は、これまでに
1億2400万回以上再生されています。

ちなみにロシアの人口は1億4600万人。

つまり、ネットを使えない子供たちやお爺ちゃん、お婆ちゃん以外は、ほとんど見たといった感じです。

この動画は、
“プーチンは、真の愛国者で物欲が全然なく、国民によりそって質素に暮らしている”
というプーチン神話を完全に破壊しました。

2021年1月に、この動画が配信された後、私も過去の記事で、
「これでプーチンは神話による統治ができなくなる。これからは、力と恐怖の統治になる」
といた内容を書いた経緯があります。

そして、現実にそうなってしまいました。

今、ロシアでは、『戦争反対』というプラカードをもって歩けば逮捕されます。

それだけでなく、SNSに『戦争反対』と投稿しても逮捕されます。

2021年1月、ナワリヌイ氏は逮捕されました。

ナワリヌイ氏の同志は一部が逮捕され、大半は外国に脱出しました。

そして、野党系テレビ『ドシディ』、野党系ラジオ『モスクワのこだま』、野党系新聞『ノーヴァヤ・ガゼータ』などは、活動停止に追い込まれました。

更に、先述の理由で、反戦デモは全くできなくなりました。

ナワリヌイ氏の『平和路線』は、大きな成果を上げました。

プーチン信仰の根っこの部分を破壊することに成功しました。

しかし、『言論』『デモ』を力で完全に封じられた反プーチン勢力には、もう“武力で戦う”しか道が残っていないのでしょう。

賢明な将校たちは、ウクライナ侵攻に反対していた

そして、もう1つ。

ウクライナ侵攻前の2月16日付の現代ビジネスの記事に、
<全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない>
という記事がありました。

参考までに、ウクライナ侵攻開始は2月24日です。

この記事の内容は、全ロシア将校協会が
「ウクライナ侵攻中止」
「プーチン辞任」
を求める“公開書簡”を公表したという衝撃的なものでした。

なぜ、全ロシア将校協会は、ウクライナ侵攻中止を要求したのか?

全ロシア将校協会のイヴァショフ退役上級大将は、ウクライナ侵攻の結果について、以下のような見通しをもっていました。

< ロシアは間違いなく平和と国際安全保障を脅かす国のカテゴリーに分類され、最も厳しい制裁の対象となり、国際社会で孤立し、恐らく独立国家の地位を奪われるだろう>
(全ロシア将校協会1月31日の公開書簡抜粋)

要するに、イヴァショフ氏は、
「ウクライナに侵攻すれば、ロシアは大戦略的に敗北する」
ので、反対していました。

もっと興味深いのは、“ウクライナ侵攻の動機”です。

プーチン大統領は、
・ウクライナをNATOに加盟させないため
・ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を守るため
・ウクライナを『非ナチス化』『非軍事化』するため
・ウクライナがロシア攻撃を企てていたため
などと説明しています。

しかし、全ロシア将校協会は、これらのプーチンの解説を全く信じていません。

では、なぜプーチンは、ウクライナ侵攻を企てたのか?

先述紹介した現代ビジネスから引用しますと、

<イヴァショフによると、
「ロシアは現在、深刻なシステム危機に陥っている。しかも、ロシアの指導者たちは、国をシステム危機から救うことができないことを理解している。システム危機が続くことで、いずれ民衆が蜂起し、政権交代が起こる可能性が出てくる」
だが、ウクライナに侵攻すれば、どうだろうか? 
イヴァショフは次のように言う。
「戦争は、しばらくの期間、反国家的権力と、国民から盗んだ富を守るための手段だ」
彼と将校協会から見ると、「ウクライナ侵攻」は、プーチンが「自分の権力と富を守るためだけの戦争」なので、辞任を要求したのだ。>

そして、実際、戦争が始まると、プーチンの支持率は83%まで急上昇したのです。

しかし、
「戦争、真の動機は、プーチン自身の権力と富を守ることだけ」
と考える元将校や現役将校、軍人たちは、
「プーチンは許し難い!」
と考えていることでしょう。

ウクライナ戦争が始まって半年が経ちました。

結局、イヴァショフ氏と全ロシア将校協会の予測が正確だったことが明らかになってきました。

彼らが、国民共和国軍と関係があるとは思いません。

しかし、軍人の一部が、国民共和国軍に参加している可能性はあるでしょう。

国民共和国軍登場で、何が変わる?

冒頭のおさらいになりますが、ロシアに初めて、
『武力によるプーチン政権打倒!』
を掲げる団体が登場しました。

現時点の犠牲者はダリヤ・ドゥーギナ氏、唯一人です。

これから、国民共和国軍による犠牲者が増えてくれば、状況は変わってくるかもしれません。

そうなると、プーチン大統領は、ウクライナとロシア国内で戦う必要が出てでてきます。

ちなみに、ロシア史の中で、今と同じような展開になりそうな時期がありました。
ロシア最後の皇帝ニコライ2世が君臨していた当時、ロシア帝国は第一次世界大戦を戦いながら、国内の革命勢力と戦わなければなりませんでした。

結局、国内の革命勢力に対抗できずニコライ2世は失脚。

1917年10月の革命で権力を握ったレーニンは、第一次大戦から撤退することにしました。

国民共和国軍が、どれくらい実体があるのかは現時点では不明です。

これから徐々に明らかになってくることでしょう。

「武力でプーチン政権を打倒する!」
と宣言する団体の登場。

そして、実際に犯行声明を出しプーチンのメンターであるアレクサンドル・ドゥーギンの娘を殺しました。

このことは、ロシアの支配層に、とても大きな衝撃を与えているに違いありません。

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