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2023.8.9 消えた中国外相…解任の本当の原因

7月25日、中国の秦剛しんごう外相が、就任から僅か半年で解任されたというニュースがありました。

政治の表舞台から忽然と姿を消した秦剛外相…。

秦剛はどこに行ったのか?
と、世界中が注目していた矢先の解任発表でした。

ネットニュースでは、解任の理由について様々な憶測が飛んでいますが、一番盛んに言われているのは“秦剛の愛人”に関すること。

愛人がスパイだったのではないか?
それが習近平にバレて解任されたのではないか?
と噂されています。

しかし、秦剛解任の本当の理由はもっと別のところにあります。

今回は、このニュースについて少し書いていこうと思います。


世界のトップニュースになった異例の人事

世界中の中国ウォッチャーにとって、今一番の関心事は、恐らく中国の外交部長の秦剛が、一体どうしたのか?どこにいるのか?ということでしょう。

ようやく、その答えの一部が7月25日に出ました。

この日、中国の全人代の常務委員会が開かれ、6月末から表舞台から姿を消していた秦剛を外交部長から解任したのです。

新たに任命したのは、前外交部長の王毅おうきです。

今回の外交部長の解任と任命は、世界のトップニュースになりました。

なぜ一国の人事が、これほど大きく取り沙汰されたのか?

それは、この人事が尋常ではなかったからです。

不可解な大出世の裏側

抑も、秦剛の出世自体が異常なことです。
彼は外交部長になる前は駐米大使でした。

今までの中国の駐米大使は、必ずアメリカの中国大使館に駐在した経験のある人物が選ばれていました。

しかし、秦剛は駐米経験がありません。
ある意味で、秦剛はアメリカの事情を知らないのです。

長期的に滞在したことのない人間が、アメリカの事情を知るはずがありません。

しかし、彼は56歳という異例の若さで、中国で一番の出世コースである駐米大使になったわけです。

しかも、秦剛が駐米大使として活動したのは僅か1年と数ヶ月です。

本来、駐米経験のない人間であれば、大使になって時間を掛けて、徐々に人脈を作るということもあり得ますが、彼は2022年12月30日、57歳で駐米大使から外交部長になりました。

これも異例なことです。

更に、外交部長になった秦剛は、その僅か3ヶ月後に国の指導者レベルである国務委員になったのです。

そして極め付けは、外交部長になって僅か7ヶ月で解任されてしまったということ。

中華人民共和国史上、最も短命の外交部長でした。

秦剛の代わりに外交部長に任命された王毅は、既に“中国共産党の外交責任者”のポストに就いています。

その上、外交部長も兼任することになり、更に権力を強めました。

中国の外交は本来、色んなルールやしきたりがあります。

その前例を全部無視して秦剛を出世させたのは誰か?

もちろん、習近平です。

習近平は独裁者ですから、前例なんて関係ありません。

法律さえも全部無視できるのですから、自分が一番可愛がっていた秦剛を無理やり抜擢したのです。

スパイの愛人じゃない…解任の本当の理由

では、秦剛はなぜ解任されたのか?

秦剛の愛人がダブルスパイではないかという疑惑がありました。
しかし、それは解任の真因ではないでしょう。

中国では愛人や腐敗、汚職というのは問題になりません。

では、本当の問題は一体どこにあるのか?

私に言わせれば、最大の問題は外交部の内部闘争です。

もっと広げて見る場合は、習近平政権の中の内部闘争かもしれません。

習近平は第20回共産党大会以降、自分以外の派閥をほぼ全部排除しました。

しかし、そうすることで今後、内部の派閥闘争がなくなるのかというと、そうではありません。

自分以外の派閥を排除した後は、皆が習近平派になります。 

すると、今度は習近平派の中で内部闘争が起きるわけです。

秦剛は、この内部闘争の標的となった可能性が高いです。

その理由は2つあります。

1つ目は、秦剛が外交部の中で全く人望がないこと。

秦剛は上の人間には媚びるのですが、下の人間には威張ります。
世界共通の一番嫌なタイプです。

彼は、習近平にずっとおべっかを使い続けたことで抜擢されたのですが、下の人間には物凄くきついのです。

2つ目は、秦剛と王毅の関係です。

秦剛の後任で外交部長になった王毅は、秦剛と非常に仲が悪いのです。

王毅は10年近く外交部の部長としてやってきたわけですから、外交部の中には王毅の派閥があります。

しかし、秦剛は部長になった途端に、王毅派閥の人事を一掃しようとしたのです。

もちろん、王毅からすれば面白くありません。

秦剛が外交部長に抜擢され、王毅はもう部長ではなくなったとはいえ、外交の責任者ではありますから、秦剛とは色々と一緒に仕事をしなければいけません。

しかし、秦剛と王毅の暗闘は全然止むことはありませんでした。

そして、派閥があった王毅に対して、秦剛に付いているのは誰かというと、習近平だけなのです。

実は、外交部の中で秦剛になびく人間はほぼいなかったと言っても過言ではありません。

ですから、今回の解任は、秦剛が内部闘争に負け、中国の政治の表舞台から引き摺り下ろされてしまったことを表しているのでしょう。

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