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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
肌の色、目の色を変えたくなったことは?
最近は、カラーコンタクトや特殊メイクなど、
さまざまな手段で、一時的ですが、
変えてしまうことが可能です。
しかし、昔々は、どうでしょう?
化粧を施してなんとかできるのは、
肌の色まででしょうが、
果たして、それで満足できたのでしょうか?
では、お薬箱を開けてみましょう。

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「瞳の色を変える薬」

紀元6世紀、カルタゴは、
大いに栄えた商業都市でした。
カルタゴの王は、豪奢な宮殿に住まい、
商人らを保護しつつ、国家を富ませていきました。
カルタゴの王は、小国から大国まで、
さまざまな珍しい物の交易を行い、
国庫には、見たことも聞いたこともないような、
貴重な輸入品や宝物が保管されていたということです。
西地中海の覇者であったカルタゴの王は、
正妻の他に、多数の愛人を召し抱えていましたが、
とりわけのお気に入りであったのが、
遠い北方の出身であると言われていた娘でした。
肌の色は、透き通るように白く、
髪は黄金色に輝き、そして、なんと言っても、
カルタゴの王を魅了したのは、
空のように青い瞳であったそうです。
娘は、娘らしい気性で、
王たる男から寵愛を受けていることを
よく承知していたのですが、
王が自分と同じように、青い瞳ではないことを
蔑むような口ぶりでした。
王は、若く美しい愛妾からの冷たい言葉に、
いつも心を痛めていたのです。
王は、国力をあげて、瞳の色を青く変える方法を求めました。
国内外でも有名な医師、オルネイスにも、
白羽の矢が立ってしまいました。
早々に瞳の色を変える方法を見つけよとの厳命です。
もう、さほど若くもなかったオルネイスは、
弟子たちの中でも有能なアイオスを従え、
老骨に鞭打ちつつ、各国を遍歴しました。
珍しい薬種や、伝統的な方法を探しに探したのです。
そして、ついに、小テュロスの女王、
イ・サキサキが、何度となく、瞳の色を変えたことがあるという、
文献を発見したのです。
オルネイスは、持ち出しを渋る住民を欺き、
アイオスに盗み出させて、自国に持ち帰りました。
研究と製剤の途中で、オルネイスは死去。
アイオスが遺志を引き継ぎ、製剤に挑戦しました。
そして、有に8年後。
ようやく製剤に成功したのです。
さて、効果のほどは?
小テュロスから盗み出した文献は、
経路は不明ですが、バチカンの資料室に保管されていました。
では、調剤料をご紹介いたしましょう。

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「瞳の色を変える薬」処方


鮫の脳の出来物(悪性腫瘍)・・・・・・・・・・2塊
カロンの蛹・・・・・・・・・・・・・・・・10個
ベラドンナ果汁・・・・・・・・・・・・・・・大匙3杯
トリカブト果汁・・・・・・・・・・・・・・・大匙3杯
毒吐きコブラの毒液シロップ・・・・・・・・・小匙2杯
ビターアーモンド・エキス・・・・・・・・・・小匙2杯
タランチュラの毒液シロップ・・・・・・・・・小匙2杯
オンドの聖水・・・・・・・・・・・・・・・・小カップ1杯

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諸注意
聞くだに、猛毒揃いです。
製剤に関しては、最善の注意が必要とされるでしょう。
とくに、カロンという蛾の蛹は、
水に浮かせていただけで、
その水は、猛毒となると言われるほど。
製剤に際しては、皮膚をしっかりと覆い、
裸眼であるなら、約5分おきに、
清潔な水で洗いましょう。
すべての薬種を丁寧に混ぜ合わせ、
甑で5回は濾してください。
その後の煮沸作業で生じる湯気には、
一息でも吸えば意識が遠のき、
死線を彷徨うとのことですから、
製剤を行った部屋は、二度と使用しないように。

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備考欄
さて、カルタゴの王は、
見事、青い瞳となられたのでしょうか?
資料によれば、実験に使用された奴隷たちは、
澄み渡る青空のような瞳となったのですが、
ことごとく、死亡したとあります。
わずかでも成分を変えると、
まったく効果も消えてしまうようです。
そこで、ミトリダテスの解毒法を用いて、
服用後、すぐに解毒したところ、
なんとか命を取り留めたと記されています。
しかし、恐ろしく強い毒であるため、
ミトリダテスの解毒法だけでは、
まったく健全で助かることはできないそうです。
症例としては、手足が麻痺する、
肌の色がひどく黒ずんでしまう、
髪がすべて抜け落ちる、など、
まったくもって、服用する甲斐のない副作用があります。
この薬剤が呼んだ一番の悲劇は、
カルタゴ王の正妻であるドナセアが、
王に愛されたい一心で、
この薬を服用し、恐ろしい症状で亡くなったことでしょう。

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