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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
身体に効くというお薬から、
心に効くというお薬まで。
現代は、お薬反乱時代です。
ちょっと前までは、夢のまた夢のような効果が、
今では、開発されていたり。
いつの世も、薬は、頼りにされるものですね。
では、今日もお薬箱を開けてみましょうか。

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「有毒になれる薬」

インドや中東では、
見目美しい子供に、
毒草だけを食させて育成し、
全身から猛毒を発するようにして、
敵の王の懐に送り込んだりしていたとか。
このお薬は、毒と共に育てるような方法ではありません。
大人になっても、このお薬を服用すれば、
猛毒を持つことができます。
毒を食させて育成する場合は、
子供の生命力次第で、
生き残れるかどうかが問題になりますが、
このお薬には、その心配はありません。
サリーさんの、不思議な薬箱、
始まって以来の、致死性の低さです!
このお薬が調剤されたのは、
13世紀のイタリアです。
メディチ家が、まだ銀行として、
富豪となり、名を馳せる前のこと。
メディチの名の通り、
医療、医薬で商売をしていた頃のことです。
メディチ家の基礎を築いた、
ヴィエーリ・ディ・カンビオは、
並みいる敵対者を密かに抹殺することに、
手練手管を駆使していましたが、
そのもっとも効果的手段として、
猛毒を仕込まれた美少女や美少年を使いました。
メディチ家は、神薬テリアカすらも、
手にしていたようですね。
当時、最も進んでいたアラビア医学を取り入れ、
あらゆる調剤を試していたのです。
何人かの優れた医師、薬剤師を有していたメディチ家ですが、
その中でも、ジュリオ・エステロは、
特に優秀でした。
今で言うところの、生物兵器。
猛毒を持つ人間ができれば、
プロの暗殺者に高い料金を払わなくてもいいと思いついたヴィエーリは、
ジュリオに、薬の開発を命じます。
ジュリオは、性根の正しい男でしたから、
はじめは、なんと恐ろしいことを!と怯みましたが、
製剤が成功すれば、イタリアを統一するのは、
メディチ家となり、それゆえの平和を享受できるのでは?と、
学者の頭で、安易に考えてしまいました。
約4年の歳月と、多大な犠牲を払い、
ついに、薬は完成します。
輝くように美しい少年と少女に薬を服用させて、
反メディチ派の貴族や聖職者に送り込みました。
猛毒を仕込まれた純粋な暗殺者と、
一度でも同衾すれば、瞬く間に青褪め、
血を吐いて絶命しました。
事が上手く進んでいる内は、まさに我が世の春。
しかし、政敵も、ただ、黙ってメディチ家の勢力増大を
眺めているわけではありません。
手法は不明ですが、毒殺の疑いがあると、
メディチ家から送られた美少女や美少年を
調べさせるようにと、告発したのです。
ジョヴァンニ・ディ・ヴィッチの息子、
コジモ・イル・ヴェッキオは、
すぐさま、ジュリオ・エステロを秘密裏に殺害。
あらゆる証拠を処分しましたが、
疑いを拭い去ることはできず、
一時的に、フィレンツェを追放されます。
しかし、薬の調剤法が記された資料は、
手放しませんでした。
再び、シニョリーア(支配者)として、
フィレンツェに返り咲くと、
薬もまた、再び使用を開始します。
しかし、コジモの孫であるロレンツォは、
高慢さからか、それとも豪胆さゆえか、
姑息な手段を選ぶことはしませんでした。
そのまま、薬は歴史の闇に葬られてしまいます。
薬の調剤法を記した書物は、
メディチ家の館の書庫に残されていましたが。
では、調剤料をご紹介しましょう。

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「有毒になれる薬」処方

竜の涙・・・・・・・・・・・大匙2杯
ジギタリスの葉・・・・・・・10枚
ダチュラの根・・・・・・・・5本
トリカブトの根塊・・・・・・3個
バイケイソウの根・・・・・・4本
ドクニンジンの種子・・・・・小匙一杯
カスター・ビーン油・・・・・小匙2杯
マチンの実・・・・・・・・・2個
カラバル豆・・・・・・・・・30粒
兎の肝臓・・・・・・・・・・1個
ベラドンナの実・・・・・・・5個
蜜蜂の毒嚢・・・・・・・・・10個
スズメバチの毒嚢・・・・・・5個

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諸注意
すべての調剤料は、新鮮なものを
丁寧に磨り潰し、細かい目の甑で濾しましょう。
用量をしっかりと守らないと、
わずかなバランスの崩れで、
生命を損なうのは、本人となりますので、
用心してください。
使用した器具は、洗って再利用などせず、
その都度、すべて廃棄してください。

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備考欄
竜の涙と言いますのは、
別に物語に登場するような、
怪しい生物ではありません。
この時代においては、大変珍しいものですが、
コモド島にしか生息していないと言う、
巨大なトカゲ、コモドドラゴンの毒嚢のこととされています。
中東経由で、仕入れられたものであろうということです。
コモドオオトカゲが発見され、
世界的に有名になったのは、1911年ですが、
実は、この時代に、すでに発見されていたということになりますね。
ましてや、この生物に毒があると知られたのは、
ここ何年かのこととされています。
しかし、その不可思議な毒。
血圧毒と呼ばれ、血圧を命の危険に到るまで低下させてしまう、
爬虫類には、見られなかった種類の毒ですが、
この時代には、もう、利用されていたのですね。
スズメバチや蜜蜂の毒は、用量を細かく、正しく守れば、
万能薬になります。
血圧毒も、他の植物毒による毒の効果を
バランスよく、抑え込むことが可能です。
そのためにも、繊細な用量の計り方が必要になります。
この薬を服用した者の身体の中では、
毒と薬のバランスが取れているのですが、
汗や体液を肌から吸収したり、
息を吸い込んだりした者の身体の中では、
まったくそのバランスは取れていない。
つまり、ひとたまりもなく、死亡するというわけです。
服用後の副作用が気になる?
そうですよね。
この薬は、微妙な用量を守って、
一年間服用しつづけることで、
完璧な有毒人間となります。
しかし、身体から毒素を抜き切るには、
3年を有します。
薬の服用を止め、テリアカを服用しながら、
少しずつ、元の身体に戻していくことです。
テリアカの調剤法ですか?
まあ、それはまた、次の機会にでも。
それまで、このお薬の服用は、
控えておいた方が無難ですね。

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