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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
生薬の力が見直され始めました。
洋の東西を問わず、自然から採集される物の薬効が、
とても期待されているようですね。
さて、人間が自然界のバランスを
破壊しない程度にしておいてほしいものです。
では、今日もお薬箱を開けてみましょう。

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「小さな背丈になる薬」


前々回にご紹介しました巨人になる薬とは、
まったく逆の効能ですね。
お薬を服用しなくても、小人症の方もいらっしゃいますが、
さまざまな理由から、小人になりたい、
または、されてしまう場合があります。
このお薬が開発された理由も、
現代においては、倫理的にあり得ないことでしょう。
まあ、今までご紹介しましたお薬の、
どこに倫理感が?と言われますと、
ちょっと、困ってしまいますが。
1197年、ボヘミアの王、
ブシェミスル・オタカル1世は、
陰謀、内乱、一族同士の血で血を洗う、
陰惨な争いと、まったく落着きのない内情に、
常に気をとがらせ、神経をすり減らしていました。
そんな最中、錬金術の流行が始まり、
さまざまな研究者が、
チェコの前身であるボヘミア王国にも、
集まり始めていました。
もちろん、そのほとんどが出自が明らかではない、
怪しい者どもばかりであったのですが。
プラハの高名な医師であり、
万病を治すことができると言う、
ハミル・オットー・ルビンシュタインは、
オタカル1世の後妻、年若いコンスタンツァに、
言葉巧みに取り入りました。
王宮に住み、一族共々、
栄華を欲しいままにしていたのですが、
コンスタンツァから、困った命を受ける羽目になりました。
お付きの召使の1人を小人にせよと言うのです。
理由は、その召使の少女が、あまりに可愛らしく、
さらに可愛らしくしたいからと。
夫であるオタカル1世は、
ハミルを王宮から追い出したかったので、
この機を逃さず、それはいい!と、
コンスタンツァ
に同意しました。
命を果たせなくば、追放どころか、
刑に処すとしたのです。
実際、ハミルには、医療の知識があったようですね。
古い書物を紐解き、あちこちを訪ね歩き、
被検体として、何十人もの犠牲者を出し、
なんと、ほんとうに人を小さくしてしまう薬の調剤に成功しました。
オタカル1世は、内心歯噛みしましたが、
その世にも珍しい薬効に、感心もしました。
可愛そうな話ですが、
可愛らしい召使は、ワインの瓶ほどの、
背丈になってしまったとか。
不自然な小ささの少女の絵が、
美術館に残されています。
調剤法が記された書物は、
大学の書庫に保管されているようですが、
他にも、多種多様な薬剤の記録もあるそうです。

では、調剤料をご紹介しましょう。

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「小さな背丈になる薬」処方


キンミズヒキの根汁のエキス・・・・・・・・小カップ一杯
アクティノライトの微粉末・・・・・・・・・大匙一杯
ゴボウの煎じ汁・・・・・・・・・・・・・・大カップ一杯
ケンタリウム・エリサラエアのエキス・・・・大匙一杯
大麻樹脂エキス・・・・・・・・・・・・・・小匙二杯
クジャクの肉のスープ・・・・・・・・・・・大カップ一杯
ウナギの脂肪・・・・・・・・・・・・・・・一匹分
赤ワイン・・・・・・・・・・・・・・・・・大カップ一杯
蜂蜜酒・・・・・・・・・・・・・・・・・・大カップ一杯
人の胎盤・・・・・・・・・・・・・・・・・1人分
テマリカンボクの樹皮の煎じ汁・・・・・・・小一杯
アルゲンタイトの微粉末・・・・・・・・・・小匙一杯

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諸注意
人の胎盤は、よく乾燥させた後に煎じます。
アクティノライトとアルゲンタイトは、
これでもか!というくらいに、
砕いて微粉末にしましょう。
ウナギの脂肪は、赤ワインで煮て溶かして使用します。
大麻樹脂のエキスは、不純物が混じらないよう、
注意を怠らないようにしてください。

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備考欄
この薬は、体内のあらゆる有機物を
命に別条がない程度に、
少しずつ溶かしていくのです。
つまり、臓器や脂肪、細胞ですね。
液化した状態になったものを
汗や尿として、体外に排出しつづけるわけですが、
薬の効果を促進させるために、
サウナに入ることを勧めています。
血液と共に薬の効能が全身を巡るからです。
この薬と一緒に、大量の水を摂取します。
小さくなっていく段階においては、
かなりの注意が必要です。
滋養の摂取と排出のバランスを取り、
薬草を敷き詰めたサウナに入り、
脱水症にならないように気をつけながら、
服用者の背丈が小さくなってしまうまで、
毎日、つづけなくてはいけません。
記録に残されている召使の少女は、
パウリン姫と呼ばれて、
王室の仲間入りをし、
その上、好事家の貴族の妻となったそうです。
しかし、あたりまえの天寿を全うすることは出来ず、
36歳で死亡したようです。
小さいから、可愛いというわけではありません。
見目がよかったからこそ、
可愛らしく、小さくなったのです。
それをお忘れなく。

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