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第2回授業研究セッションレポート

概要

SALASUSUが2021年よりJICA草の根技術協力事業の一環で行う「カンボジア職業訓練校のソフトスキル研修能力向上プロジェクト」では、カンボジアの若者が自分らしく人生を歩めるようなソフトスキルが育まれることを目指して、職業労働訓練省とパートナーシップを組み、ソフトスキル育成の担い手となる公的職業訓練校の現職教員養成を行なっています。その活動の柱の一つ、現職教員研修の一環として挑戦しているのが授業研究の導入です。教師がプロフェッショナルとしてreflective practitionerとしての専門力量を鍛えるため、さらにまた学校の枠を超えたソフトスキルの教員たちが学びあえるコミュニティになっていくことを狙います。

実施内容

6月のタケオ州でのセッションに続き、7月はREGIONAL POLYTECHNIC INSITUTE TECHO SEN SIEM REAP (RPITSSR、通称RTC シェムリアップ、以下RTC シェムリアップ校) にてソフトスキル教員たちのラーニングセッションを開催しました。今回はシェムリアップ州及びバッタンバン州エリアにある、全5校の職業訓練校のソフトスキル教員が集い、RTC シェムリアップ校のソフトスキル授業を観察することを通じて自らの教授法の内発的改善やソフトスキル授業についての理解を深めていきました。
当日は、RTC シェムリアップ 校からは校長先生を含む6名、同じくシェムリアップにある NATIONAL POLYTECHNIC INSTITUTE OF ANGKOR (NPIA) からは3名、バッタンバンの3校(REGIONAL POLYTECHNIC INSTITUTE TECHO SEN BATTAMBANG (RPITSB)、BATTAMBANG INSTITUTE OF TECHNOLOGY (BIT)、NATIONAL VOCATION INSTITUTE OF BATTAMBANG (NVB))からソフトスキル教員12名、カウンターパートである労働職業訓練省より2名、 SALASUSUからは5名の、総勢28 名が参加しました。

朝9時にRTC Siem Reapの学校に現地集合しました。このセッションに参加するほとんどの教員は、4月末のSALASUSUとDSCが主催したワークショップでリフレクション型アプローチとも呼ばれるこの授業研究手法について理解を深め、観察の練習を行った上でこの学習機会に臨んでいます。しかし今回は初めて参加するトレーナーも数名交えての会だったため、開催約1週間前にオンラインで本ラーニングセッションと授業観察の目的や方法について説明する機会を持ちました。その甲斐もあって、9時からの授業観察前の導入セッションの段階ですでに活発に質問が飛び交い、授業観察に入る準備を入念に行うことができたように感じました。
9.40頃から始まった公開授業は、チームワークをテーマにした1.5時間のクラスです。受講生徒は23名ほど。この授業研究において、私たちが繰り返し唱える観察の重要なポイントは、観察する先は決して授業者の教師やその教え方ではなく、生徒の学ぶ姿、このクラスの中の生徒一人一人に起きている事実から学ぶ、ということです。
なお今回は授業者の先生の工夫によって、一斉にの方を向いている形ではなく、生徒同士が対面でより会話が進むような、グループの形にアレンジがされていました。これは授業を対話型にしていくための、シンプルでありながら、基本的で大切な場づくりの手法の一つです。こうした点についても他のソフトスキル教員が、他の教員の授業を見て、自身のクラスの設計についてアイディアを得てもらうことも、隠れた狙いにあります。

授業観察の後、ランチを挟んで、午後からは校長先生のコメントをスタートに、授業観察をふまえての振り返りセッションを行いました。教員たちは各々が観察した事実とそこからの自身の学びについて1分程度でコメントを順番に述べます。「1グループのSさんが発言したことに呼応して、3グループの2人が何かを話し出していました。必ずしも先生の言葉からだけではなく他の生徒の発言からも学ぶことがあるのではと思いました。」「Tさんが発言している時、Aさんは何かを書こうとしていましたが実際はあまり関係のないことを書いているようでした。」クラスの中で起きていた様々な事実が共有されました。

共有後、SALASUSUから以下のようなお題を出しました。「授業の中に盛り込まれたゲームを通じて、チームワークに関わる学びを得た生徒は何人くらいいたでしょうか。」「先生と生徒の問答に加えて、生徒と生徒の対話がよりうまれるにはどのような工夫があると良いでしょうか。」これらの問いについて、グループに分かれて協議する時間を設けました。
その意図としては、生徒同士の対話や学びがより増えるような授業にしていくためにはどのような発問やワークが良いのだろう、そんな問いが筆者の中に浮かび、教員たちと考えを深めてみたいと考えたからです。というのも、実際に今回の公開授業では教員ができるだけ生徒の発言を促せるよう、色紙に回答を書いてグループで集めたり、ゲームを導入したりと工夫を凝らしており、生徒もそれに応えようと熱心に参加していました。その姿はとても印象的だった一方で、工夫を凝らしていても先生と生徒の一対一の問答が多く、一人の生徒が答えている間位に、俯いている生徒がいたのも事実でした。この点を取り上げ、先生たちと考察を深めるトライでした。 ソフトスキルは他のどの教科にも増して、特に対話や学び合いが重要な科目だと私たちは考えています。それは他者とどのようにコミュニケーションを取るか、チームワークがうまくいかない時にどのような行動を取るか、どう自分の気持ちを理解して伝えていくか、といったソフトスキルの課題については、決して絶対的な一つの正解があるものではないと考えるためです。他者とあらゆるケースについて対話し様々な視点を獲得すること、またそうした学習のプロセスそのものがソフトスキルを育むものでもあります。だからこそ、ソフトスキルの先生たちとの振り返りを繰り返し行い、ソフトスキルのクラスがより有意義なものになるよう考え続けていきたいと願っています。

考察・学び

今回もまたシェムリアップ・バッタンバンエリアにおいては初のセッションでしたが、参加者の先生たちの熱心さに支えられて、また校長先生の素晴らしいサポートもあり、終始心理的安全が保たれたセッションになりました。前回に続きこの安心安全の中での学びの場を再現でき、ソフトスキル教員たちの持つ純粋な学びの意欲は、より深いソフトスキル授業を作り上げていく上での揺るがない強みであると改めて認識しています。
この授業研究セッションを何度も何度も重ねること、同時に継続して行うセッションが、より一層の熱量を持って現職の教員たちが学びの喜びを感じ続けられる場であるよう、丁寧かつ真摯に準備を進めていきます。また、会をより学び深い場にするためにも、SALASUSUの私たち自身の観察眼を養うことも重要な課題と考えています。

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