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号泣しながら新宿の街を徘徊したのち、60万円をドブに捨てた


眉毛を整える。
「綺麗な眉毛」とされる部分を除いた、
眉上はシェーバーで、眉下は毛抜きで。

自眉のどす濃いマキシマムザホルモン女(ファンの方々、ゲスい使い方をしてしまいすみません)は、眉頭に近い、眉下の太めな毛を抜くと、皮膚の表面がピリッと痛んだあと、目頭の奥がじんわり熱くなって、鼻がツーンとして、思わず涙が出てくる。

毛に涙と言えば、一度医療脱毛のサロン帰りに大泣きしながら新宿の街を徘徊したことを思い出す(極めて特殊な因果だが)。



高いだとか、痛いだとか、医療脱毛にまつわる噂をSNSでしこたま耳に(目に?)していたため、変な冷や汗をかきながらカウンセリングに向かった。
その時はまだお金のなかった大学生になりたてほやほやの春で、「大好きな美容の一環とはいえ絶対に月1万5千円以上は払えない!!」と思っていたから、身の丈に合った最低限のコースにしよう、と決心していたのだが。

乗せられた。完全に乗せられた。
いかにも「愛想笑いですよ」という感じの笑顔を貼り付けたお姉さんが、「8回照射だと自己処理が楽に、10回だと完全脱毛、12回だと肌質まで変わります!」とか言うから。「医療ローンを組めば、(超絶分割医療ローンマシマシで)ギリギリご予算内の1万5千円で行けます!」とか言うから。
己を磨き整えることに関して財布の紐が緩いどころか財布自体がガパッと開いてしまっている欠陥女は、迷わず12回を選んでしまった。
このあと見ることになる地獄も知らずに。


人生で一番おおきい買い物をしてやったぜ!という謎の高揚感を抱えたまま、はじめての施術の日。
回転寿司のネタをつくるバイトかと見間違うほどに、いかにも流れ作業的対応な医者にいろんな同意をとられたのち(気分はバンジージャンプ(やったことないけど))、照射の部屋に案内される。

このあとわたしの体毛を隅々まで焼き尽くすであろうでっかい機械を見つめながら、紙パンツに履き替え、汚れないようビニールで覆われた、無機質で硬めのベッドに横たわる。
試着やら施術やらで着替える時、時間に余裕を持って「お着替えお済みでしょうか?」の言葉をかけてくれる店員側の方々に普段なら感心の念を覚えるのだが、今回ばかりは「早く入ってきてくれ!!」と願う。だって、いつもより少し速い自分の鼓動がうるさすぎる。怖がっている自分を自覚して、いたたまれない気持ちになる。早く楽にしてくれ。

「お着替えはお済みでしょうか?」

来た!!!早く楽にしてくれ!!!!!!
という強い気持ちとは裏腹に、裏声混じりで小さめの「ヒャイ!」という声が出る。小心者で無経験なのを露呈してしまったようで恥ずかしい。こういうときに腹から野太い声を出せるように、普段から腹式呼吸を徹底しようと小さく誓う。

そしていよいよ施術。
全身に冷たいジェルのようなものを塗られて、手際よくピピピッ…と光が当てられていく。時々ほのかに熱を感じる箇所もあるけど、医療脱毛、お前、噂よりいい奴だn

!???????!?!?!?!?ッっッッ!!!!?

VIO(おまたの毛のことです)の毛が照射された瞬間、全身がすくんで毛穴という毛穴に鳥肌が総立ちしたのを鮮明に覚えている。痛い。これは痛すぎる。弁慶もびっくりの痛みである。
巷で聞いていた「ゴムがバチンと弾かれる感覚」とかいう甘っちょろい程度ではない。打たれた瞬間全身の筋肉が思わず痙攣し、その筋肉の動きにともなって肺に余計な力が入り、声にならない声が出る。
拷問、そう、拷問としか思えない。

ちなみにVIOのヤバさに霞んで書き忘れそうになったが、脇もなかなかにヤバかった。痛みを擬音にするなら「ヂュンッッッッ」。

照射後は放心状態で全身を拭き、服を着た。ジェルのおかげで全身がベタベタ冷たくて、照射された毛からはなんとびっくり焼け焦げた匂いがして、思わず泣きそうになる。これが「美しくない毛」との餞別である。あまりにも無慈悲で悲しい。
悲しさのあまりわたしは思わず、太古から人間の体を守り、必要とされていたからこそ今も残っているはずの、焼け焦げた毛を想う。この毛を育ててくれたわたしの、わたし自身も計り知れないいろんな働きを想う。この毛になるために摂取された、タンパク質を想う。とんでもなく高いお金を払って、こんなに悲しい思いをして、わたしは、なにを手に入れようとしているのか。

数ヶ月経ったのち、2回目の照射に行った。基本的に脳みそがニワトリなので、オプションでつけられる麻酔を断った。前の痛みはきっとコンディションと気分の問題で(実際に睡眠不足の時や生理前などは痛みを感じやすいらしい)、いやむしろあそこまでの痛みは人生でなかなかないから、いつか話のネタにできるようたのしんでやろうと思っ

!???????!?!?!?!?ッっッッ!!!!?

無理だった。2回目ともなると、痛みに抵抗するための自然な反応なのか、泣こうなんて思っていないのに照射中に思わずポロポロと涙が出てくる。2回目に照射を担当してくれたお姉さんは優しくて、さめざめと泣くわたしにティッシュを渡してくれた。
ただ、それはあくまで業務が滞らないための優しさであって、その後も「もっと弱くしてください!!!」と泣きながら懇願するわたしに、「前回大丈夫だったのでいけますよ〜」と容赦無く光を当ててくる。ジーザス。
それでもまだ諦めずにいられた。なぜって、わたしにはまだ麻酔という切り札が残っているから。

ということで、3回目はさすがに麻酔を打った。さすがに多少気持ちは軽いものの、切り札とはいえただの札、あの鮮烈な痛みの前には焼け石に水程度の信頼度しかなく、照射前から反射的に体に力が入る。ベッドの上には掴まるものがなにもないので、両手を祈るように合わせて、力を入れた部分が白くなるくらい堅く堅く、堅く握る。手には冷や汗、顔は梅干し、ネットで調べたよくわからない呼吸法と森羅万象に思いを馳s

!???????!?!?!?!?ッっッッ!!!!

無理だった。
麻酔を打っても語尾の「?」ひとつ分くらいしか変わらなかった。
痛い、悲しいを超えて呆然とした。ひょっとしたらすでにあの痛みを知ってしまっているが故の過剰な防衛反応なのかもしれないけど、それでも、麻酔をかけてもなお、涙が出てしまうくらいに痛かった。
ちょっとだけ毛は薄くなったし肌触りもツルツルになったけど、照射後は相変わらず焦げた匂いがして、体はベタベタで、皮膚がまだらに赤くなっていた。

帰り道、痛みと、情けなさと、やりきれなさと、悲しさと、いろんな感情がマリネされた結果出てきた大量の涙をそのままに、新宿の街を歩きながら、当時付き合っていた元彼に電話をかけた。

この涙をただ拭ってほしかった、上に「お前がなにげなく触っているわたしの肌には、巨額の金と、痙攣するほどの痛みと、心拍数の上昇と(死が近づくようで好きじゃない)、いろんな屍の上に成り立っているんだぞ!!!!」という高慢な気持ちがなかったと言えば嘘になる。筆舌に尽くしがたいクソアマである。

元彼はというと、わたしの涙ながらの主張(「痛かった」というだけ)を、笑いもせず、否定もせず、ただ受け止めてくれた。めちゃくちゃに優しい。
(ちなみに、のちにこの元彼には、『君は「気が合う」と思っているんだろうけど、僕は君より繊細なんだよね』と振られる。当時は意味がわからなくて悲しかったけど、今となっては極めて正しい選択だと思う)


それからというものの、完全に心が折れたわたしは、脱毛をサボり続けた。月に1回くらい来るクリニック公式LINEからのセールの自動配信に一方的に気まずくなりつつ、徹底的に無視を決め込んだ。

のだが。
察しのいい方はすでにお気づきかもしれないが、わたしが決め込んでいたのは、無視ではなく、現実逃避であった。
毎月銀行口座から引き落とされる「¥15,600」が気になりはじめて(わたしはおどろくほど出ていく金に無頓着なのだ)、ついに脱毛サロンに解約の電話をかけた。あの痛みと巨額の引き落としとも本格的に決別か、と晴れ晴れした気持ちで電話をかけると、衝撃のひとことが返ってきた。

「非常に残念なのですがお客様、解約期間が過ぎているのでもう解約できませんね……」

!???????!?!?!?!?ッっッッ!!!!?

痛みとはまた別の、でも同じくらいの衝撃が走った。意味がわからず、「どういうことですか?」と聞き返してしまった。同じことを説明された。当たり前である。
力なく「ありがとうございます……」と返して、電話を切った。閉じたスマホの画面に映った、狐につままれたような表情の自分が情けない。

60万。ほんとうは50万かそこらだったけど、
学割で引かれて、医療ローン込みで60万。
60万円あったら、なにができただろうか。

海外旅行だって行けるだろうし、パーソナルトレーニングだってバッチバチに通い続けられるし、ハイブランドの服も買える。

その機会と引き換えに払った60万は、サボった期間ですっかり生命力を取り戻してしまった毛と、信じがたい痛みに充てられたのだ。つまり、雑にまとめると、号泣しながら新宿の街を徘徊したのちに、わたしは60万円をドブに捨てたのである。

己の怠惰さにむしゃくしゃした。のと同時に、ここまでおおきなお金と覚悟を持って、脱毛の痛みと虚無感に耐えられる人間はすごいな、と思う(痛みにはかなり個人差があるし、わたしはかなり痛みを感じやすいタイプの人間だという前提はあるが)。そうまでして人々を脱毛に行かせてしまう、今の世の中の美の基準は、やっぱり異常だと思う。

ちなみに脱毛の施術有効期間は今年の4月まで。
60万円をドブに捨てようと、もう絶対に行かないと決めている。


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ここからあとがきと怒涛の自分語り
(ずっと自分語りか)


明けましておめでとうございます!!!!!!
最後まで読んでくださった方は愛しのフォロワッサンでしょうか?
知り合いの方でしょうか?
まさかのこのエッセイが初めましての方でしょうか?

いずれにせよ、こんなド新年(アップは2023/1/1)に正月と全く関係のない文章を読んでいただいて本当にありがとうございます!!!!!!!!!大好きです!!!!!!!土下座!!!!!!!!!!!!握手!!!!!!!!!ハグ!!!!!!
(しかも前作まで読んでくださった方に至ってはまさかの2回とも眉毛始まりですみません)

これを読んでくださったあなたに石橋がどう映っているかわかりませんが、実はものすご〜〜〜く打たれ弱くて決断に時間のかかる石橋、
1年半ほど前に1回noteを書いたあと、自分の考え方、捉え方を明確に否定されて傷ついた経験があり(これもいつかネタにしてやる!ぷんすか)文章でなにかを表現することに大きな恐怖を抱いていました。

でも、その間にも定期的にマグマの如く
ふつふつと書きたいことが湧いて、
伝えたいこと、叫びたいことが脳内に溢れて、
その熱をなんとか留めておけるように
メモと心の奥底に記録して…

そんなことをシコシコやっているうちに、徐々に自分自身の認知の歪みを客観視できるようになってきました。

だって、否定してきた人はひとりだけど、
私には、インスタに2.4万人、TikTokに5.3万人(未だに多すぎて実感の湧かない人数だけど)、リアルにも、友達、恋人、家族…たくさんの仲間がいる!!!!

自分がやりたいことで、その仲間がひとりでも喜んでくれるかもしれないこと、楽しみに思ってくれるかもしれないことから目を背けるのは、「傷ついた自分」の殻に閉じこもって安心したいという甘えと弱さだな、と思うようになれたのです。

もちろん傷ついた感情を絶対に否定はしないし、その経験ともまだまだ向き合っている途中なのですが、
それって走りながらでもよいのでは?
むしろ走りながらの方がかえって真摯に向き合えるのでは?
と思えるようになれました。本当にありがとうございます。


TikToker?インスタグラマー?インフルエンサー?エッセイスト?
今までも、これからも、肩書きはまだまだ未定ですが、変わらず「自己肯定感を高く持ち、自分らしく生きられる人を増やす」 という壮大な夢を、「表現」という、得意分野であり大好きなことを通じて叶えていきたいです。

真面目な話がつづきますが、したがって、表現方法を増やすこと、それを世に出してみて、見てもらうこと、評価をしてもらうことは、私にとってすごく大切なことなんです。

だから、何かしらの形で石橋と出会い、それがプラスな感情であれマイナスな感情であれ石橋に興味を持ってくれたり、ひょっとしたら大好きでいてくれたり、そしてなにより最後までこれを読んでくれてひょっとしたらいいねまで押してくれたかもしれない全員に感謝!!!!土下座!!!!!!!!!!!!握手!!!!!!!!!ハグ!!!!(しつこい)

という感じで、2023年は今まで続けてきたSNSはもちろん、文章を書いてみたり、自分の想いを落とし込んだ商品をつくったり、恐れすぎず「表現」の幅を広げていきたいです!

(大人の方、文章でも、企画でも、SNSの裏方でもなんでも、お仕事ドシドシお待ちしております!!!2023年は文章書きます!!!
石橋を使った無機質なPR依頼はめちゃくちゃに断ってしまいますがそれ以外は基本前のめりにお受けさせていただきます!!
saikyou.naritai.contact@gmail.comご依頼はこちらまで!!!)

この調子だとあとがきが本編より長くなりそうなので最後に。

綺麗ごとに聞こえるかもしれないけど、このエッセイが、あとがきが、私の発信が、あなたの背中を押したり、楽しませたり、なによりしんどい時にあなたを抱きしめるものになれていたら、本当に、本望of本望of本望です。これが生きる意味です。マジで。

2023年もズンズンと進んでいきますので
よろしくお願いします!!!!!!!!


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