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映画日誌’20-50:この世界に残されて

trailer:

introduction:

第二次世界大戦後、ソ連の影響下にあったハンガリーを舞台に、ホロコーストを生き延びた少女と医師の交流を描いた人間ドラマ。短編映画で評価されてきたバルナバ―シュ・トートが監督を務め、ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作『心と体と』のプロデューサー、モーニカ・メーチとエルヌー・メシュテルハーズィが製作を手がけた。映画初主演となるアビゲール・セーケと、ハンガリーを代表する名優カーロイ・ハイデュが共演。(2019年 ハンガリー)

story:

第二次世界大戦終戦後の1948年、ハンガリー。ホロコーストを生き延びたものの家族を喪った16歳の少女クララは、両親の代わりに保護者となった大叔母オルギにも心を開かず、同級生とも打ち解けず、孤独な日々を暮らしていた。そんなある日、クララは寡黙な医師アルドに出会い、言葉を交わすうちに彼に少しずつ心を開いていく。やがてクララは父を慕うように彼に懐き、アルドは彼女を保護することで人生を取り戻そうとする。だが、スターリン率いるソ連がハンガリーで権力を掌握すると、再び世の中は不穏な空気に包まれ...

review:

知っているようで知らない、ルービックキューブの国ハンガリーについてググってみる。ハンガリーは中央ヨーロッパの共和制国家、首都はブダペスト。国民の86%以上をマジャル人(ハンガリー人)が占め、ロマ(ジプシー)とドイツ人が住まう。第二次世界大戦以前にはユダヤ人も多かったが、約56万人ものユダヤ人がナチス・ドイツによって殺害され、迫害によってアメリカやイスラエルに移住していったそうだ。そして終戦後は、ソビエト連邦の強い影響下で社会主義国家となった。戦争で受けた傷を癒す間も無く、スターリンの独裁が台頭し、党員でなければ政治的迫害を受けるようなキナ臭い時代を迎えたのである。

そうした時代背景のなか、ホロコーストで家族を喪い、癒えることのない傷を負った少女と孤独な中年医師が、年齢差を超えて痛みを分かち合い、絶望のなかから希望を見出していく物語である。少女クララを演じたアビゲール・セーケはこれが映画初出演ながら、残された者の怒りや哀しみを体現し、ハンガリー映画批評家賞最優秀女優賞を受賞した。ハンガリーを代表する名優カーロイ・ハイデュクが寡黙な医師アルドを演じ、心のひだを感じさせる繊細な演技でハンガリーアカデミー賞およびハンガリー映画批評家賞で最優秀男優賞を受賞している。

クララとアルド、親子のような友情のような、繊細で曖昧な関係が描かれていく。が、えっ、あたし知らない間に寝てた・・・!?と思うくらい、2人の関係が構築される過程、つまり導入部分がない。クララがアルドに懐く様子が唐突すぎて、いつ2人の心が通い合ったのか分からないのである。完全に置いてけぼりになったものの、美しい、端正な映像から目が離せないのである。親密に心を寄せ合いながら、決して一線を越えることのない特殊な愛のかたちが、丹念な心理描写で映し出される。輝きを取り戻して女性になっていくクララ、不穏な空気に包まれていく世相に戸惑い、揺らぐ2人の関係。観ているこっちの心も掻き乱されっぱなしである。

しかしなるほど、『心と体と』のプロデューサー、モーニカ・メーチとエルヌー・メシュテルハーズィが製作したんだったら納得だよ・・・。孤独な男女の心の結びつきを描かせたら芸術。バルナバーシュ・トート監督曰く

「クララとアルドは、性的な関係ではありません。それはアルドが紳士、かつ人間だから。もちろん誘惑に戸惑うことはありますが、それには負けない。大人の男性とはイノセンスを都合よく利用したり、搾取したりしないものだから。逆にクララは、全ての意味でアルドを愛しています。でもアルドは、彼女が“愛”の意味をまだ理解していないのを知っている。だから一時の感情に流されないのです。」

とのこと。近年ホロコーストを題材にした映画が量産されていて若干食傷気味ではあるが、心に残る秀作であった。

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