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【本004】大学で学ぶ沖縄の歴史

今年の春先、沖縄国際大学の秋山道宏先生より、『大学で学ぶ沖縄の歴史』(吉川弘文館、2023)をご恵贈賜った。


本書は書名にある通り、琉球沖縄の通史を「先史・古代から現在の沖縄社会までたどりながら学べるテキスト」(プロローグより)であるが、中身は単なる通史にとどまることなく、執筆者の先生方それぞれの強い問題意識とメッセージ性を有するものである。琉球沖縄のこれまで、そしてこれからを考えるのに不可欠な内容をわかりやすく、かつコンパクトに、それでいて単純化することなく叙述されている本書は、このnoteをご愛読いただいている皆さまや私の授業を受講していま大学生以上になっている元受講生にも強く勧めたい一冊である。

*いま現在の受講生には勧めないということでは決してない。もちろん関心のある受講生諸氏にも是非とも手にとってもらいたい。*

本書序文でも触れられているが、琉球沖縄史を通史的に概観・通観するテキストはこれまであまりなかった。それ自体、問題視すべきことではあるが、そうした中で、本書が出版されたことは歴史・教育、ひいては社会的に大きな財産であると思う。

さて、本書を先史・古代からページを繰ってみると、単に「日本史」を学ぶだけでは得られない視点や知識が続々と登場する。私はこれほどまでに「琉球沖縄」の前近代を、知らなかったのだ、ということを痛感する。

また、近現代の章では、琉球処分での「廃藩置県処分」や旧慣温存策の具体的内容から教育・軍隊の整備から沖縄の「近代化」をたどりつつ、沖縄移民やマラリア流行などの特論的なテーマ、さらには沖縄の自己認識、沖縄近現代とキリスト教会の関係などのコラムも充実している。そのなかには当然、大学受験日本史でも触れられる内容もあるが、本書の丁寧な叙述はその行間を埋めていくような内容であり、点と点がつながっていくような感覚である。

そして時代は下り、沖縄戦、米軍による統治、ベトナム戦争の最前線としての沖縄、そして現代的な課題として大きく沖縄にのしかかる米軍基地問題についても相当の紙幅が割かれている。

さらに、私もかねてから関心をもっていた「反復帰」という「思想」についても解説されていた。

1972年5月15日の沖縄返還は、沖縄の施政権が米国から日本に”返還”されたことを一般的には意味するが、それは一方で、「日本」のナショナリズムに沖縄がふたたび回収されることを意味した。

アメリカによる「異民族支配」からの脱却を訴える復帰論の一方で、日本復帰を「第三の琉球処分」とする思想も存在していたのである。

復帰思想のもつ「日本人」や日本という国家に自らを一体化させようとする心性(精神性)をも問題とした。その批判の矛先は、復帰運動が戦前の軍国主義の象徴であった「日の丸」を振って進められたことにも向けられた。・・・〔中略〕・・・復帰をめざす心情は盲目的なナショナリズムではないか、日本国家に頼る復帰では自治や自立は不可能ではないか、そういった根本的で思想的な問いがそこには含まれていた。

『大学で学ぶ沖縄の歴史』pp.196-197

さらに本書では、これに加えて1960年代後半の「一般戦闘協力者」に対する戦没者叙勲を描いたNHKのドキュメンタリーを取り上げ、援護金という経済的支援を受けることと叙勲が抱き合わせになっていることから、”復帰”に対するさらなる問いかけがなされている。

国家による”叙勲”と日常生活に直結した経済的支援というリアルな”事情”、それらとナショナリズムとの関係をいかに考えるべきか、まだまだ考えるべきことは多い。


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