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ショートショート、瞬間の切り取りが多いです。 お花や空の写真を眺めるだけでも…楽しんでいただけますと幸いです。
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#創作大賞2023

『迷子』

紫陽花残る7月中旬 町内掲示板の前を通る 「花火大会  一緒に行かない?」 突然の誘いに 嬉しさと恥ずかしさと 残念な気持ちで私は足下を見た 去年に続いて 部活仲間と見に行く予定を伝える おそるおそる顔を上げると わくわくした顔の君がいた 「じゃあはぐれたフリしよ!」 君の作戦はこうだ 部活の面子と一緒に合流するから 人混みに紛れて抜け出そうと 「焼きそば買って待っといて。  迎えに行くから。」 絶妙に格好の付かない台詞に 同時に吹き出しお腹を抱えて笑った

『夏のはじまり』

あなたとこっそり 二人で出かけた日の 夢を見た 知り合いのいない 海を目指した 電車の旅 地元を離れて五つ目の駅で 手を繋いで 九つ目の駅の通過待ちで サイダーを一本買い足して 一緒に飲んだ バスに乗り換え 後ろから二つ目の席で あなたの肩に頭を預けて 眺めた景色は 白く眩しかった 海に着く 大きな声で 互いの下の名前を呼びながら 波打ち際で足を濡らし遊んだ お昼前には空腹に負けて コンビニで買っていった おにぎりを 一口ずつ交換こした 「おかかも  なかなか

『やっぱり君の方がいい』

「好き。」 僕が言うよりも 君が口にした方が 素敵な言葉になる なんか こう 咲き掛けの薔薇の蕾のような 可愛らしさがね そんな言い訳を付けて 今日も僕は 君からの着信を待つ 眠る前にもう一度聞かせて 「好き。」 やっぱり君の方がいい #薔薇 #詩 #散文 #恋愛 #写真

『探しもの』

「有りそう?」 「今のところ無さげ。」 たったそれだけの会話で、 ごく自然に 君の隣を獲得できた。 白く繊細な花を 摘むこともなく、 二人の周りに 風は青く香るだけで。 四つ葉が無くても、 今、僕は幸せだ。 #詩 #散文 #シロツメクサ #クローバー #写真

『緑と』

「緑色にも、  結構種類があるよね。」 山道で今日もまた いつかの君の言葉を 思い出す 土の香り 雨粒の落ちる音 木々の隙間を見上げれば 首筋の汗を 風が優しく撫でていく 苔むした岩壁の シダの葉が さわさわと揺れて 続く斜面に 息が上がり もう一度空を仰ぐ 今、ここで 私は 生きている #写真 #詩 #散文 #自然 #草花 #散歩

『思い慕う』

学校帰り 君と話していた 近所の公園 古びた遊具の 螺旋階段の先 てっぺんの広場が 私たちの特等席 気の置けない仲なのに 肝心なところの 本音が言えない ひねくれ者同士 それでも 隣に並んでいたら 触れ合うことができたよね お揃いで買った ビーズのストラップ 君は緑で 私はピンク 切れない縁は テグスのように ねじれてゆらり あの日のままで 今年の夏も またそばにいる #詩 #散文 #ネジバナ

『もう少しだけ』

素直になれていたら 思いやることができたなら もっと長く そばにいられたのかな "他のいい人と幸せになってね" お前がそう言うのはわかっていたのに 試した僕に刻まれた罪は ケロイドのように消えないままで もう少しだけ 欲張りで わがままでいて欲しかった #詩 #散文 #恋愛 #空

『相合傘』

ねぇ 相合傘って 隣に並んで歩くんだよね? 君が真正面に居たら ちっとも進めないんだけど 傘の柄ごと握られた手が熱い 「もう少し寄らないと濡れちゃう。」 そうは言うけど これ以上 くっつけないよ 世界には ぽつぽつと当たる雨音と あたたかい胸の音だけ 恋の音が 響いていた #詩 #散文 #恋愛 #相合傘

『日曜日の終わりに』

明日は 君に会える #詩 #散文 #空 #夕焼け

『続・空』

別れ道で君を見送り 僕はひとり 空を見上げた 微かな唸り声を上げる北風は 怪しい雲を運んでいる 週末は会えない だからもう一度 遠ざかる君に目を向ける 街灯に反射する カバンの留め具 揺れる髪をおさえた横顔は 同じ空を見上げていた #詩 #散文 #空

『空』

明日は晴れかな。 これから雨みたいだけど。 昼は蒸し暑かったね。 夕方になったら、 涼しくて気持ちいい風になった。 白と青 深く 浅く 夕暮れと夜の 狭間の青空 あなたとわたし 別れた道の先で 同じ空を見上げていた #詩 #散文 #空 #写真

『夏至』

「あーついなぁ。」 「あーついねぇ。」 体育終わりの 僅かな休み時間 君が下敷きで仰ぐ風は ベコベコと小気味良いリズムで ほのかに香る 汗拭きシートのシトラスに 夏休みの足音を感じる 黒板横のカレンダーを 眺めた君が ぽつりと呟く 「今日、夏至なんだね。」 「南中高度。」 「言いたいだけっしょ。」 頬杖を付いたまま 半笑いで言い返されて 少し悔しい うつ伏せの体を起こして 君の薄い右頬へ 人差し指で 優しく反撃を試みる 「げしっ。」 「…言いたいだけっ

『知らない空』

今にも降り出しそうな風が 半袖のブラウスをひやりと撫でる なんとなく今日は ミルクの甘さで温まりたい 「一緒に飲む?」 狭い路地で 蓋を開ける 先に飲んだ君の吐息は 柔らかな笑みと溶け合って 私の一口目をさらに甘くする 車が来たのか 思いがけず 肩を抱き寄せられた 君越しに見えた知らない空に 不安と期待が入り混じる ふわりと漂う 同じ香りを頼りに 目の前の胸元に 頭を預ける 君の優しさが 白く じんわりと 私を包み込んでくれた #詩 #散文 #イラスト #恋

『音の記憶』

君が私の名前を呼んだ 苗字ではなく 名前の方を呼び捨てで 戸締りを終えた薄暗い 二人きりの教室で お返しに 君を名前で呼んでみた 精一杯の呼び捨てで 「悪くないね。」 どことなく照れを隠した返事は 少し熱を帯びていて 耳の奥がこそばゆかった #言葉の添え木 #詩 #散文 #イラスト