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『スラップスティック』読んだ本 ご紹介!

カート・ヴォネガット著 『スラップスティック』(ハヤカワ文庫)
文庫本の表紙を描かれたのが和田誠さん。6月に京都の美術館で作品を拝見し、絵とタイトルに惹かれました。りまのが持っているとのことでしたので、借りて読みました。タイトルから、初期のチャップリンやキートンなどのサイレント時代の映画のように、ストーリーがあるんだかないんだか、めまぐるしい展開、でもなんだかおかしい。そんな小説だと思って読み始めましたが、まったく違ってましたね。ハイホー(この掛け声が頻出します)。

富豪の家に生まれた姉と弟。大きな体と奇妙な見た目。二人が密着していると天才。離れていると能力が落ちる。その落ちぶりが大きく、元々の能力に欠ける姉は病院に送られ、後に火星で事故死。少し能力の高かった弟は医者になり、アメリカ大統領まで上り詰める。ただアメリカはその頃落ちぶれており、大統領といえど州の知事ほどの権力もない。とはいえ彼は「もう孤独じゃない!」というスローガンの元、ある政策を実行するという話です。

章が短く、また章の中も細かく区切られているので読みやすい反面、主人公の一人語り、記述なので物語をなかなか客観的に見ることができず、序盤は話に入れませんでした。しかし姉弟が能力のないふりをやめた頃から、俄然面白くなってきて、最後まで一気に読みました。とはいえ最後は時系列が入り乱れるので、また混乱してしまいましたが。

「どうか愛をちょっぴり少なめに、ありふれた親切をちょっぴり多めに」
                               P11

カート・ヴォネガット『スラップスティック』ハヤカワ文庫

プロローグにあるこの言葉が、大統領の政策に表れているのではと思いました。孤独にはさせない。そのために国が一人一人にミドルネームを与え、同じ名を持つものは親類、家族。とんでもないけど、面白い発想ですね。親が選べるようになる。親ガチャなどと言われだしたのは現代の話。小説発表当時にこのシステムを発想したことがすごくないですか。ただ最後ちょっと唐突に終わってしまいましたので、そこが残念です。スラップスティックは本人に笑いの意識はなく、いたって普通なつもりなのにおかしみがあり、周りも振り回されてドタバタするコメディーなので、もっと周囲に狂騒曲のような勢いがあればよかったと思いました。ところどころ笑えて、いい言葉もあって、でも少し物足りなくもある。そんな印象です。
ハイホー。

※紙の本は現在入手が難しく、上のリンクはkindle本です。


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