憧れのGUCCI

アパレルの仕事をしていたことがある。そのためか、洋服屋で店員さんに声をかけられることに抵抗がない。購入予定がなくても、おすすめの商品を教えてもらうし、試着もする。ウィンドウショッピングはとても楽しい。

そんな図々しい私だが、百貨店の一階にある、GUCCIなんかのハイブランドのお店では、ウィンドウショッピングができない。入る勇気が出ない。ガラスの外からバッグや派手なお洋服たちをちらちら見るだけだ。店員さんの姿が見えただけで目を逸らしてしまう。心臓がドキドキする。冷や汗がでる。

高校生の頃にデパートコスメを初めて買いに行った時もそのような感覚になった。友達と手を繋いで、雑誌で人気だったDiorのリップグロスを買いに行った。心臓が爆発しそうなくらい緊張していた。私のドキドキは、私の手のひらを通して友達に届いていたようだ。友達は「こんなんは、慣れやって〜」と先輩風を吹かせていた。

その通りだった。
今は、デパートコスメが大好きで、買わずに眺めているだけで幸せな気分になる。
そのデパートコスメコーナーを出ると、GUCCIなどのハイブランドショップがある。ひぃっ。と悲鳴が出そうになる。デパートコスメを見ていた時のうきうきが吹っ飛んで、家で蜘蛛が出てきた時のように見ないふりをして立ち去る。

29歳の頃に初めて、ハイブランドのお店に入った。Tiffanyの結婚指輪を購入するためだった。入り口は扉がなく、他に見ている人がいたので、入ることはできた。しかし、ドキドキして、店員さんの言っていることがうまく頭に入ってこない。
勇気を出して、「結婚指輪を」と、切り出すと、店員さんの対応が急に変わり、指輪コーナーに通されてフカフカのソファーに座ることを勧められた。だんだん慣れてきて、飾られているグラスを見てかわいいね、プレゼントにいいかもね、なんて話すことができた。その後、私たちは当初の予定通りのデザインの指輪を購入することができた。夫はあまり緊張しなかったらしい。理由を訊ねると「購入するって目的があったから」だそうだ。なるほど。とすぐに納得した。

つまり、GUCCIも欲しいものが決まっていれば入ることができるのかもしれない。そう思ったが、ハイブランドのバッグやアクセサリーを欲しいと思ったことがない。それに、Tiffanyは行き慣れたデパートコスメコーナーの一角にあり、GUCCIはその外にある。特別な人しか入れないくらい入り口はわかりにくいところにある。狭いし、ガラス扉は分厚い。開け〜ごま!くらいの呪文じゃ開きそうにない。
しかし一度きりの人生だ。一度は中に入ってみたいと思っている。狭い扉の中に入ったら、どのような景色が待っているのだろう。どんなにおいがするのだろう。とても気になる。

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