見出し画像

日本語に訳せたところで何それ?な単語(前) 英語勉強中


初めて出会う英単語で、「日本語の意味を聞いてもよくわからん」っていうのがたまにある。
そんな時は自分が6流の国語力しかないことが、実に情けなくなる。

例えば、

I came across my grandfather's almanac in the attic.

なにかの英和辞書か参考書で出て来た例文だったと思う。「I came across my grandfather's almanac in the attic.」

come across は「たまたま出くわす」、attic は「屋根裏」。
そして almanac は、知らない。
意味が「知らない」ではなく、意味を知らない。

屋根裏部屋で、おじいさんのなにかに出くわしたわけだ。
なにを見つけたんだろう? 
屋根裏でたまたま見つける物と言えば………へそくり? エロ本? タマタマ? 
それとも愛人かな。隠れていたおじいさんの愛人にたまたま出くわしてしまったとか。亡くなったおじいさんが若い時に邸宅に連れ込んで、屋根裏部屋にこっそり住まわせていた愛人が、85歳くらいの老婆になってやっと発見されたのだろうか? ※愛人は生きて発見された
自分の家の屋根裏に知らないおばあさんが何十年も住んでいた、ということを知った時の、ご家族の気持ちというのはいかなものだったのだろうか……。

しかしその翌日、もう一度屋根裏部屋を見に行ったところ、愛人は無惨にも体中から血を流して死んでいた。
昨夜のうちに、やはりまだ存命だった本妻の方のおばあさんが、愛人を包丁でメッタ刺しにしたのだ。

いや、愛人ではありません。

I came across my grandfather's almanac in the attic. に添えられていた日本語訳は、「屋根裏部屋でたまたま祖父の暦を見つけた」であった。

almanac は愛人でもタマタマでもなくて、「暦」だそうだ。

なるほど。

私は思った。

暦ってなに?

暦というと、太陽暦とか太陰暦とかの暦でしょう?
暦の上ではディセンバー、でもハートはサバイバーでしょう。
「地球が360度回転する期間を1日としそれを24で割ったものを1時間とするそして太陽の周りを1周する時間を1年とする」みたいな、日時の数え方じゃないの暦って?

大辞林で「暦」を調べたら「時の流れを年・月・週・日などを単位として区切った体系。暦法。」だった。だいたい私の認識であってる。
だとしたら、おじいさんは天文学者かなんかで、生前に太陽暦やマヤ暦やグレゴリオ暦に代わるオリジナルのおじいさん暦を発明してその秘術を屋根裏部屋に封印していたということか。
天文学者というより占星術師で、その一子相伝の暦の秘術を発見したことにより、例文の主語「I」は自分に偉大なシャーマンの血が流れていることを知り、今後の人生を陰陽師として生きて行くことを決意したのだろうか……。

私は妄想癖があるのできっかけがあるとこうしてどんどんつまらない妄想を膨らませてしまうのだが、辞書の「暦」の項目をもう少し細かく読んでみたら、時の流れの体系や暦法という説明の後、最後にぽつんと、「(または)カレンダー」と書かれていた。

なるほど!!!!!

おじいさんのカレンダーを発見したのですね!!!!!

それならしっくりくる。
屋根裏に、おじいさんのカレンダーがあったのだ。
おじいさんがいろんな衣装でポーズを決める写真が月替わりで掲載されている、おじいさんのカレンダーを屋根裏でたまたま見つけたのだ。
いやそうじゃなくておじいさんが所有しているカレンダーを見つけたのだ。

だったら、「屋根裏部屋でたまたま祖父の暦を見つけた」じゃなくて、「屋根裏部屋でたまたま祖父のカレンダーを見つけた」と訳を書いてくれれば良かったのでは? なぜカレンダーをわざわざ暦と表現するのか? 
よっぽど昔からある例文だったのだろうか。カレンダーを「暦」と表現する方が一般的だった時代に作られた例文なのだろうかこれは。アーネスト・サトウが幕府側の通詞に英語教育を施すために作成した教本の例文なのだろうか?

まあ私が言いたいことは、このように、暦がカレンダーであるということすら知らなくても作家にはなれるということだ。作家志望のみなさんは私を見て油断して欲しい。


他の例。

pitch black という表現があった。It was pitch black outside. みたいな。

辞書で pitch black の意味を調べると、「真っ黒・漆黒」。上の文は「外は真っ暗だった/外は漆黒の闇だった」みたいな訳となる。
生半可なblackじゃなくて、ブラックに輪をかけた筋金入りのブラックということだ。ブラックでんじろう先生がちょっと被験者に電気を流すくらいのかわいいいたずら実験をする人だとしたら、ピッチブラックでんじろう先生はお笑い芸人さんにマイクロウェーブを放射して体中の水分を沸騰させ爆発させてしまうような、本当のブラック実験をする怖い人という感じになるだろう。

で、
pitch blackが「真っ黒・漆黒」ならば、black=黒なので、pitch は「真っ」や「漆(しっ!)」に該当する意味であるはずである。
ではpitchを調べてみる。
野球のピッチャーのピッチなので、「投げる」とか「放る」とか、あるいは「競技場」みたいな意味もあるが、それはpitch 1であり、真っ黒には関係ない方の訳だ。
では pitch black に関わる方のpitch 2の意味はなにかというと、「瀝青」
一応カッコ書きで読み方も書いてあって、「れきせい」

読み方がわかろうが、なんのことかはまったくわからない。

私が知っている別の表現では「coal black」というのがあって、これも「真っ暗、漆黒」という同じ意味である。
coal は石炭なので、coal black は「まるで石炭のように、なみの黒さではない黒」というふうに受け止められる。コールブラックでんじろう先生もまた恐怖実験で人体を爆破しそうである。
まあこれも、炭坑で働いたこともない我々石油・LNG・原発世代は「石炭ってそんなに黒いの?」とピンとこなかったりもするのだが、まあ coal black が漆黒を表すのなら石炭は黒いのだろう。

たしかに、漆黒という感じがする。
ともかく、「石炭」という言葉は少なくとも知っているので、イメージとしてピンと来なくても言葉にはピンと来る。

でも、瀝青は知らない。なんのイメージもわかない。そもそも「瀝」という漢字に出会ったのも人生で初めてな気がする。

そうなると今度は、「瀝青」の意味を辞書やネットで調べるという、英語から考えると意味の意味を調べるという二度手間を行うことになる。
Wikipediaいわく、「天然または人造の炭化水素からなる化合物、またはその化合物および混合物で、非金属誘導体などの混合物の一般的総称。ビチューメン(ビチューム、ビチウメン、Bitumen)、チャン (chian turpentine) とも呼ぶ。」ということだ。

なるほど。

………………。

これはもう、あきらめよう。
いい。pitch blackは「真っ黒・漆黒」という意味なのだ。それだけ覚えればよい。pitch=瀝青 は覚えなくてよい。
私は日本語文化圏で45年生きて来て出版界でも15年生きているのに瀝青という言葉を使ったことはもちろん見たこともないのだ。
それほど瀝青というのは出くわさない単語なのだから、日本語よりずっと触れる機会の少ない英語で今後瀝青を意味するpitchに出会う確率もほぼゼロであろう(pitch black以外は)。つまりpitchが瀝青という意味であるということを知らなくても今後の人生にもまったく支障は無いと思われる。

しかし私はこのブログを書いたことで完全に覚えた。pitchと聞いて「瀝青」をすぐ思い浮かべられる数少ない日本人になった。
アウトプットは記憶の定着に絶大な効果を発揮するのだ。

まあ写真を見るとたしかに、漆黒だ。
瀝青が「歴青」になっているけど。

pitch blackは、漆黒!

いち、に~、さん………、漆黒漆黒!! 漆黒漆黒!! 漆黒漆黒!!!(byダイナマイト漆黒)


後編へ続く


この記事が参加している募集

#英語がすき

19,674件

もし記事を気に入ってくださったら、サポートいただけたら嬉しいです。