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つくも×ムジカ

タイトルが降ってきたので、ショートショートを書いてみました。

石畳の道のある古い職人街。
楽器修理を生業とする少女の姿をした魔女がいた。
彼女が直した楽器は、聴く者、奏でる者を幸福にする魔法がかけられているようだった。

魔女の客は人間だけではない。
ほら、今日もやって来た。

「ほーほー」
緑色の鳥が来客を知らせる。オカリナの付喪神だ。
扉の前に壊れた大正琴が一張。
魔女の修理店には、稀に楽器自らがやって来る。
「いらっしゃい。」
魔女は聖女のような微笑みで大正琴に語りかけた。

魔女が大正琴を抱えると、悪魔のように黒ずくめの青年が話しかけてきた。
「そんな金にならない仕事、する事無いって。」
「私のやろうとする事にケチをつける気?
元のバンドネオンに戻そうか?」
「おお、怖っ!」
魔女に凄まれ、青年は畏縮してしまった。

作業台に乗せられた大正琴に、魔女は意識を集中させた。【声】を聴いているのだ。

「──そうなの。持ち主のお孫さんが乱暴な演奏をしたせいでボタンと弦を破損してしまったのね。壊れたまましまい込まれて、忘れられてしまったのね。悲しかったね。」
魔女の言葉に、大正琴は空気を震わせた。

魔女の懸命な修理によって、大正琴は元の姿を取り戻した。

チューニングの為に魔女が演奏をすると、大正琴は和服の少女の姿に変わった。
「私を直してくれてありがとう。」
長い時を経たので、付喪神になったのだ。
だけど大正琴の表情は冴えない。

「…ねぇ、もしも居場所がないのならウチで働かない?
ここにはオカリナの鳥とバンドネオンの悪魔の付喪神がいるし、寂しくないよ。」
魔女の言葉に同意するかのように、オカリナの鳥は「ほーほー」と鳴いた。
「まあ、にぎやかになって良いんじゃね?」
バンドネオンの付喪神もニカッと笑った。


石畳の道のある古い職人街。
楽器修理を生業とする魔女と付喪神たちが、今日も客を幸せにする。

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