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紫陽花の花言葉 6

「兄さん、夕飯は何処かで食べてきた?」
時刻は21時になっていた。俺は兄に父の危篤の連絡をしてから、水すら口にしていなかった。

「……そういえば、家を出る前に【ひなた】がコップに注いでくれたスポーツ飲料しか口にしてないな」
兄の口から女性の名前が出てきたことに、俺は驚いた。年齢的には結婚していてもおかしくはないのだが……。

「兄さん、ひなたさんって兄さんの彼女?」
俺が尋ねると、兄は目を丸くした。

「ひなたは俺の友人の子どもだよ。今年14歳になる。俺の方が歳上なのに、ひなたの方がしっかりしているんだ」
兄は穏やかな微笑みを浮かべていた。実家を出てから、良い人たちとの出会いがあったのだろう。

病院のレストランは閉店していたので、兄と2人、近くのファミレスに入った。

俺は兄と何を話せば良いのか分からず、飲み物をおかわりするのに、ドリンクバーを何度も往復してしまった。

兄がおもむろにテーブルの上で両手を組み、口を開いた。
「……清明、そういえば【菖蒲あやめ】さんは元気にしているか?」

菖蒲とは、兄の世話をしていた、うちに代々仕える家系の女性だった。

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