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【コラボ小説】ただよふ(「澪標」より) プロローグ

この小説は、may_citrusさんの小説「澪標みおつくし」を、海宝課長の視点から私の想像で書いたものです。

あなたが北関東事業所に異動してしばらく経った頃、本社にいる僕のもとに青天の霹靂の情報が舞い込んできた。

それは大学の弓道部時代からの友人、志津しづからもたらされた。

こう、鈴木が寿退社だってよ。」
「…志津課長、仕事中は海宝かいほうと呼べと…って、え?鈴木さんが?」

鈴木みお。僕が愛した運命の女性ひと
双極性障害の妻のケアで心身疲れきっていた僕を、愛し癒してくれた女性。

「お前、鈴木と考え方が似ていて良いチームだったもんな。寂しいだろう。」
僕は声を喉から絞り出して、「そうだな。」とだけ答えた。

寂しいとか嫉妬とか、もうそんな感情を抱くのに何の意味も持たない。
コロナ禍で病気を悪化させ自殺未遂をした妻を選び、あなたに別れを切り出した僕には、そんな資格なんてない。

僕は席をたち、窓からあなたのいる北関東の空に祈った。

「どうか、幸せに──」
自分から仄かに漂うあなたと同じ香水エルバヴェールが、あなたの笑顔を思い起こさせた。


may_citrusさんの小説、「澪標」はこちらです。


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