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つくも×ムジカ 5

石畳の道のある古い職人街。
楽器修理を生業とする少女の姿をした魔女がいた。
彼女が直した楽器は、聴く者、奏でる者を幸福にする魔法がかけられているようだった。
今回の仕事は、彼女にとって厄介な案件であるようで……


「何で大正琴のお嬢さんは連れて行くのに、俺は店番なんだよ」
バンドネオンの付喪神はカウンターテーブルの天板を叩いた。

「バンドネオンの悪魔、そんな不機嫌な顔しないの。あなたはビジュアル的に、あの場所は危ないのよ。それに、オカリナの鳥を置いていくから、急ぎの用の時は飛ばして」
オカリナの鳥はガッカリしたように「ほ~」と鳴くと、魔女の肩から飛び立ち、悪魔の頭の上に乗った。

「はぁ?いつも連れてるコイツまで置いていくのかよ!」

「魔力切れでこの子が元のオカリナに突然戻ってしまったら、落ちて割れてしまうもの」
付喪神たちが安定して姿を保っていられるのは、魔女の強力な魔力のお陰である。

「そんな危険な場所、何で行くんだよ!」

「修理する楽器があるからよ。『今は』私に危険は及ばないから平気よ」
魔女は含みのある言い方をした。

悪魔を納得させられぬまま、魔女と大正琴のお嬢さんは店を後にした。

石畳の道を抜けた町はずれにある教会に、その楽器はあった。

「わぁ!大きい〜!」
大正琴のお嬢さんが驚嘆の声を上げた。

「これは、『パイプオルガン』というのですよ」
シスターは作られたような笑みをたたえている。

「ここにバンドネオンの悪魔がいたら、『建造物じゃん』って言いそう」
お嬢さんがそう言った時、一瞬シスターの笑みが消えた。

「……では、修理が終わったらお知らせしますね、シスター」
魔女の手首と足首には銀製のバングルが着けられている。装飾が施されているが、手枷や足枷のようである。

「では、宜しくお願いします」
シスターは軽く頭を下げると、その場を去った。

「魔女、その銀色の何?」
お嬢さんが眉をひそめて指差した。

「これ?魔力封じだよ。国の保護が無かった昔、魔女は教会から嫌われていてね……その名残だよ」
魔女は淡々と説明をしながら、道具を広げていった。

「何、それ。感じ悪い」
お嬢さんがつぶやいた時、魔女が「どこで話を聞いているか、分からないからね」と言葉を慎むよう促した。姿は見えないが、確かに視線は感じる。

「お嬢さん、私は今魔力を使えないから、パイプオルガンの声を聴いてもらえる?」

魔女の修理は、いつも楽器の声を聴くことから始まる。今回は代わりに大正琴のお嬢さんが楽器の声を聴き、魔女に伝えた。

「……そう、鍵盤が落ち込んで演奏が出来ないのね。それと、何だか『息苦しい』と。」

魔女は、鍵盤の落ち込みを直した後、丁寧にパイプに付着した埃を取り除いていった。

時間が経つにつれ、魔女の顔色が悪くなっていった。修理が終わる頃には、立っているのもやっとだった。

魔女は修理が完了したことを、シスターに知らせた。

「修理していただき、ありがとうございました」
シスターが形式的に礼を述べた。

魔女の手首と足首からバングルが外され、魔女とお嬢さんは追い出されるように教会を出た。

「よう、迎えに来たぜ」
教会の外で、バンドネオンの悪魔が魔女たちを待っていた。悪魔の肩には、オカリナの鳥が留まっている。

魔女は悪魔の姿を見ると、膝から崩れ落ち、気を失ってしまった。悪魔は意識のない魔女を背負い、帰路に向かった。

付喪神たちには、教会のパイプオルガンの荘厳な音色がしばらく聴こえていた。


石畳の道のある古い職人街。
楽器修理を生業とする少女の姿をした魔女がいた。
魔女が意識を取り戻すと、付喪神たちが魔女の目覚めを心から喜んだ。

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