賃上げ:誰かを上げれば誰かが下がります。
法で、無条件に賃上げをするのは無茶です。賃上げを望むなら自分の「稼ぐ能力」を上げるしかないです。
ただし、私は賃上げ要求そのものを否定しているのではありません。念のため。妥当な賃金を要求するのは「交渉」であって、当然の経済活動です。
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仮に全ての人を賃上げしたとしましょう。
するとインフレが起こって貨幣価値が下がります。労働者が豊かになれば需要が増えるし、人件費が上がるので、企業は値上げするからです。(注1)
購買力は変わりません。事実上、賃上げはないのと同じです。
注1:「値上げ反対」などと言っても無駄です。
例えばハンバーガーが200円だったのが220円になったら、「値上げ」とわかるでしょう。
しかし企業も馬鹿ではない。同価格でもハンバーガーが小さくなります。
あるいは従来製品の代わりに新メニューとして「スーパーハンバーガー」を発売し、これを220円で売ります。
これは文句のつけようがないのでは?
この種のことは日常的に行われている。スマホや自動車が頻繁にモデルチェンジをする理由の一つがこれです。
あるいは店ごと変えるという手もある。ガストを閉店して、夢庵に変えます。夢庵の方の価格設定を高めにしておけば、値上げしたのと同じです。
もっと言ってしまうと、その市場の企業が入れ替わる。例えばユニクロが倒産して、無印良品に置き換わるかもしれない。
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というわけで全員上げは無意味です。
だから実効力のある戦略としては、特定の人を上げて、それ以外の人を下げるしかない。
例えば新人の賃金を上げて、ベテランの賃金を下げる。
ただし、この戦略に大多数が賛成することはないでしょうね。特定の人だけが得をする政策は無理がある。
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別の言い方として、「企業の報酬(利益)を減らして従業員の賃金を増やせ」という表現があります。
しかし(例えば)「トヨタ自動車株式会社」などという人物が存在するわけではない。トヨタの資産はトヨタ株主の所有物です。
トヨタの内部保留を減らせと言うのは、トヨタ株主の資産を減らせというのと同義。
じゃあ、トヨタ株主とは誰なのか?
これが実は数割はトヨタの従業員なのです。持株会です。
また機関投資家の場合もある。例えば日本年金機構です。だからトヨタの資産が減れば年金加入者が損をする。それは一般の国民です。
要するに企業(だけ)が損失を引き受けるなんて事はないのです。結局は個人である誰かが損をかぶります。
全ての財は最終的に個人に帰属するので、これが当たり前です。
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これを勘違いしている人が多いです。大事な事なので繰り返して書きます^^;
法人の資産は、どこかにいる個人の資産です。
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これを踏まえると、(やるとしたら)行き着く結論はこうなります。
「金持ちから奪って貧乏人に分けろ」
これは選択肢の一つです。と言うか既にやっている。累進課税です。そして、これは「利益の再分配」という重要な社会福祉政策の一つです。
しかし、こんなものを民間企業に「賃上げ」などというやり方でやらせても効率は悪いです。そして金持ちが反対するから失敗するでしょう。例えばトヨタの大株主が賛成するわけがない。
元々民間にやらせる話じゃないのです。行政がやる仕事です。というか、行政じゃないとできません。(注0)
注0:民間企業の行動は金持ち(大株主)が決定します。だから必ず金持ちが有利になる決定をする。
一方で、行政の行動は国民が決定する。そして国民の権利は貧富にかかわらず平等です。
具体的に言うと、株主総会では1株が1票ですが、国政選挙では1人が1票です。
まとめると、「賃上げ」問題は低所得者に対する減税で解決すべきです。基本的には所得控除額を上げるだけなので、賃上げよりもよほど簡単でしょう。(注1)
注1:しかしこれは実行されない。なぜかというと財務官僚が税収減を嫌うからです。彼等にしてみれば税収減は「役得と権力の減少」なので反対します。
逆に賃上げは税収(所得税)増なので財務官僚はそちらを選びます。
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