職域救急シリーズ 第4回
さくらSOC労働衛生コンサルタント・産業医事務所です。前回と同じ会社、同じ保健師さんが、今度は次のような社員さんの健康面談を担当することになった。今回の事例は、厳密にいえば「救急」とは言えないかもしれませんが、産業保健の実務的には、時にファインプレーになるかもしれないと思いながら、書いてみます。今回の事例も筆者の経験や一般的な知見を基にしたフィクション事例であることはあらかじめお断りしておきます。
事例
36歳男性(以下、Cさん) 営業職 転勤が多い 現職場は半年前から
Cさんの今年の健康診断の結果
体重 89㎏ BMI 31 BP 170/95 FBS 88 HbA1c 5.4 TG 290 LDLC 123 HDLC 29
AST 67 ALT 88 γGTP 33 Hb 16.4 喫煙(-)飲酒(-)
通院歴 高血圧 現在3剤内服中(3か月前から現医院)
既往歴 転勤のたびに通院先が変遷 変わるたびに薬が増えている
保健師
「Cさん、こんにちわ。血圧コントロールが難しそうですね。夜は眠れていますか?」
Cさん
「ええ、まあ。夜中に時々目が覚めてトイレに立つことはあります。そのせいかどうかは、わかりませんが、昼間は疲れが取れない感じはあります。いやでもね、昼間の眠気はないですよ。全く」
保健師
「昼間の疲れ感と血圧コントロールが薬で難しいことをふまえて、〇〇〇の検査の必要性を一度、主治医先生に相談してみてはどうですか?」
保健師は、ある疾患を想定して、Cさんにそのように話したのであった。
(本日はここまで) 後日続きをアップします。
〇〇〇はアルファベットが入ります。
2024年10月1日AM800
続き(回答)
2024年10月1日 PM1815
(回答)〇〇〇=SAS
保健師
「昼間の疲れ感と血圧コントロールが薬で難しいことをふまえ、SAS(※)の検査の必要性を一度、主治医先生に相談してみてはどうですか?」
※SAS:Sleep Apnea Syndrome(睡眠時無呼吸症候群)
Cさん
「え?、でも昼間は眠くないですよ。いびきは単身赴任だからわかりませんけど。」
保健師
「実は、眠気を感じなくても重症のSASであることもあるんです。また、薬剤抵抗性の高血圧の場合、未診断のSASがその原因となっていることもあるんですよ。ところで、車の運転中に危ないと思ったことはないですか?」
Cさん
「危ないというわけではないですが、あ~、そういえば、つい先日、信号待ちしていところ、後ろの車からクラクション鳴らされたことがありましたね。もしかしたら、今思えば、一瞬寝ていたのかもしれません。もし、運転中だったら危なかったですね。」
保健師
「そうなんです。SASの研究をされて、国土交通省のSASマニュアルを改訂させた谷川先生という方が提唱された「NOSSA(ノッサ)(※)」という病態があるんですよ。眠気がないのが特徴なんです。車の事故と直結するので産業保健的にはとても重要な疾患概念なんです。
※NOSSA:NOn Sleepy Sleep Apnea(眠気のない睡眠時無呼吸症候群)
https://www.mlit.go.jp/common/001105884.pdf
Cさん
「ありがとうございます。よくわかりました。早速主治医に相談してみます。」
(転帰)
後日、Cさんは、CPAP適応のSASであることが診断され、SASの治療が開始され、血圧も安定化した
以上です。産業保健職が知識を広く持っていれば、このような形で診療に協力することもあるのだろうと思います。日々、知識のアップデートは怠らずに精進したいものです。知識習得にゴールはありませんからね。
今回のまとめです。
ありがとうございました。