見出し画像

MBTI:リーダーシップの型と性格タイプ

 今回の記事の記事で取り上げるのは、リーダーシップのある性格タイプとされるESTJ・ESFJ・ENTJ・ENFJである。もちろん、他の性格タイプであってもリーダーになって活躍している人も多い。ただ、リーダーらしいリーダーと言えば先に挙げた4タイプになるだろう。

 さて、今回の記事のテーマに関して書く切欠はENTJ・ENFJの違いが分からないとの声である。私の感覚だとENTJ・ENFJの2タイプはかなり違うので簡単に区別がつく。それゆえ、その声は意外であった。ただ、この私の感覚は一般教養で学んだ経営学の知識によるのかもしれない。そこで、ESTJ・ESFJ・ENTJ・ENFJのリーダーシップの違いを経営学の理論からみることで、この4つの性格タイプの違いを見ていこう。

 経営学の知識がある人用に取り急ぎ結論を述べておこう。

【リーダーシップ論の観点:フィードラーのコンティンジェンシー理論】
ETJ型リーダー:タスク志向型リーダー
EFJ型リーダー:人間関係志向型リーダー

 ESTJ・ESFJ・ENTJ・ENFJのいずれのタイプも何らかの状況でキッチリとした有効なリーダーシップを発揮する。もちろん、頭目(おかしら)的なESTPのリーダーシップ、不思議なカリスマのINFJ、台風の目のように色々な人を巻き込むENFPのリーダーシップ等もあるのだが、リーダーシップらしいリーダーシップを発揮するのはやはり先の4タイプである。

 以降の議論の流れについてだが、一先ず性格診断から離れて経営学の話をして、議論で用いる経営学の理論の確認を行う。その後、各性格タイプに関して確認した理論から考察していくことにする。


■リーダーシップ論を巡る学説史のはなし

 リーダーシップ論の中心的理論は以下のような変遷を辿っている。

  1. リーダーシップ特性論(1900-40年代):優れたリーダーに見られる共通の資質や特性を明らかにしようとする理論

  2. リーダーシップ行動論(1940-60年代):PM理論・マネジリアルグリッド理論・レヴィンのリーダーシップ理論等のリーダーの優れた行動の共通点を明らかにしようとする理論

  3. 状況適合理論(1960-80年代):コンティンジェンシー理論・パス=ゴール理論・SL理論等の状況によってリーダーシップの相性があるとする理論

  4. コンセプト理論(1970年代-現代):リーダーシップの相性との基本的考え方を引き継いだ、集団や環境に応じたコンセプトに対応するリーダーシップを考える理論群

 リーダーシップ論の流れに関して大きく分けると、「1.・2.」と「3.・4.」の二つに分けられる。つまり、「絶対的にベストなものがある」という見方から「リーダーシップには相性がある」という見方にリーダーシップ論は転換した。4つの性格タイプを考察するときに用いるコンティンジェンシー理論は「リーダーシップには相性がある」という考え方において現代的なリーダーシップ論と共通である。しかし、リーダーシップを捉えるときの枠組みに関しては少し古めかしくなっている。とはいえ、コンティンジェンシー理論にせよ、SL理論にせよ、現代の中心的なリーダーシップ論であるコンセプト理論と排反的関係にはないので、いまなお有用であるとの印象を私個人は持っている。

 また、コンティンジェンシー理論に登場する「タスク志向型リーダーシップ」「人間関係志向型リーダーシップ」という概念自体は、一つ前の時代のPM理論に登場する。もっともPM理論の「タスク志向型」「人間関係志向型」という二つの枠組み自体が、経営学の革命的なパラダイムとなった20世紀初頭のテイラーの科学的管理法と1924-32年に行われたメイヨーとレスリスバーガーのホーソン実験から生まれた人間関係論にそれぞれ依拠している。

 学説史の話はこの辺にして、コンティンジェンシー理論について見ていこう。


■コンティンジェンシー理論とは

 産業組織心理学者のフュードラーは、リーダーシップにはタスク志向型リーダーシップと人間関係志向型リーダーシップがあり、リーダーにとっての状況の望ましさに関して、劣悪な状況と良好な状況においてタスク志向型リーダーシップが適合的となり、その中間の状況において人間関係志向型リーダーシップが適合的となるとした。そして、そのリーダーにとっての状況の望ましさは以下の3点から評価されたものとし、また、それぞれの評価軸毎でリーダーにとっての望ましさを考えた場合についても、適合的なリーダーシップのタイプは同様であるとした。

  1. フォロアーとの信頼関係

  2. タスクの構造

  3. リーダーの権限の強さ

 その関係を図示すると以下になる。

状況に適合したリーダーシップの型 (筆者作成)

 コンティンジェンシー理論のリーダーシップ型と適合性に関して、具体的なイメージを持とうとするなら、高校のクラスと望ましい教師像を想像すればよい。所謂ランクが高い高校と低い高校は、淡々としたドライな教師のほうが成果を上げる。一方、ランクが中間くらいの高校は、クラスの一体感を重視する熱い教師が成果を上げる。

 ここでポイントとなるのが、メイヨーとレスリスバーガーから始まる人間関係論が明らかにしたインフォーマル・グループの概念である。職場における典型的なインフォーマル・グループは自販機前でのコーヒー仲間やタバコ部屋仲間である。つまり、職制により規定される人間関係(フォーマル・グループ)とは異なる、非公式に形成される職場の人間関係である。ただし、フォーマル・グループとインフォーマル・グループに関して、属するメンバーが同一であるような形の概念上は別個になるグループもある。先に挙げた、一体感のある学級などはフォーマル・グループとインフォーマル・グループが一体化したグループである(※ただし、一体感の無い学級はフォーマルグループとインフォーマル・グループは重なっていない)。因みに、インフォーマル・グループに関して事典の説明を引用しておこう。

インフォーマル・グループ informal group
 企業体や官公庁など合理的な仕組みをもつフォーマルな職場組織の内部に自然発生する非公式な集団。元来は産業社会学の用語であるが、今日では経営学やリーダーシップ論にも応用される。フォーマル組織の合理的な制度に適応しきれず欲求不満に陥る人間にとって、インフォーマル・グループは、人間的な情緒性や個性の触れ合いを通じて人格的に参加できる準拠集団となり、仲間の社会的承認によって心理的に安定できる貴重な場となる。そこには暗黙の集団規範や道徳律ができ、各人はそれにより思考や行動の様式を制約されるが、この非公式な規範は、メンバーが人間的に了解し適応できるうえ、集団から孤立して心理的よりどころを失うことをおそれるので、彼らは自発的に服従して集団の維持を図ろうとする場合が多い。フォーマル組織との関係については、その目的遂行活動を妨げたりゆがめたりするとしてインフォーマル・グループの逆機能が論じられることが多かったが、最近では両者は相互依存、補完関係にあるものとして複合的にとらえる見方が生じている。とくに、集団主義的慣行をもつ日本の職場では、独特の義理や甘えの論理も通用する各種のインフォーマル・グループが存在し、それらを活用してフォーマル組織の合理性に有機的につなぐための仕組みがくふうされており、経営管理活動においてもそれが積極的に応用されていることが多い。
                           [杉 政孝]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)


■フォロアーとの信頼関係と適合的なリーダーシップのタイプ

 さて、フォロアーとの信頼関係が強固である場合はリーダーの人情味から齎される、あるいはリーダーが形成した人情味のあるインフォーマル・グループから齎される感情的報酬は特には必要が無い。そのような追加報酬が無くともフォロアーは自発的・自覚的にタスクを熟すので、むしろスムーズなタスク処理が進むようにリーダーは明確にタスクを指定すること等を心掛ける方が良い。

 逆に、フォロアーとの信頼関係が脆弱である場合は、リーダーからの感情的報酬も、リーダーによって形成されるインフォーマル・グループからの感情的報酬も価値が低いので、フォロアーをモチベートするに至らない。それゆえ、タスク処理がスムーズにいくように心掛けるリーダーの方が成果を上げる。

 面白いことに、フォロアーとの信頼関係が脆弱でもなく強固でもない、言わば信頼関係が発展途上の場合にこそ、人間関係志向型リーダーのパフォーマンスが高い。感情的報酬に関するギブアンドテイクが有効に機能するのが中間程度の信頼関係なのだろう。また、お互いのお互いに対する感情的価値をコモンノレッジ化するための振舞が必要なのも中間程度の信頼関係であるといえるだろう。因みに、コモンノレッジとはゲーム理論における概念で以下のような知識である。

P0:Xである
P1:P0であることをAもBも知っている
P2:P1であることをAもBも知っている
P3:P2であることをAもBも知っている
       ・・・
Pn:Pn-1であることをAもBも知っている
       ・・・

n→∞において上のことが成り立つとき、P0の知識はAとBにおいてコモンノレッジという

コモンノレッジについての説明 (筆者作成)


■タスク構造の複雑性とリーダーシップのタイプ

 さて、タスクの構造が単純であるときと複雑であるときが、タスク志向型リーダーのパフォーマンスが高い。一方、タスク構造が単純すぎず複雑すぎないときは人間関係志向型リーダーのパフォーマンスが高い。これから、なぜそうなのかについて確認していこう。

 タスクの構造が複雑であるときはタスク処理に必要なリソースが多いために、タスク処理以外にリソースを割かないタスク志向型リーダーの方が人間関係志向型リーダーよりパフォーマンスが高くなる。

 タスク構造が簡単であるとは、そのタスクがルーチンワークということである。ルーチンワークとは大抵の場合に現状で最適化されている。つまり、変にいじる方が効率や安全性が落ちてしまうのだ。しかし、人間という存在はルーチンワークを大人しく繰り返すことが中々に難しい。この辺りの事情については、1999年の東海村JCO臨界事故を想起すると理解し易い。当該事故は正規の手順を定めたマニュアルから逸脱した「処理効率を上げる思われた現場の創意工夫」が原因で起きた原子力事故である。ただし、当該事故はルーチンワークからの逸脱が引き起こした事故としては極端な例である。世の中のルーチンワークが全て未来永劫に変更することはあり得ない、などということはないのでルーチンワークであっても創意工夫や改善の余地は当然に存在している。とはいえ、ルーチンワークの改変に関して、純粋に効率性などを向上させる創意工夫なのか、長期的には逆効果・安全性を著しく損なう改変なのかを判断するにはそのルーチンワークへの十二分の知識と理解が必要である。そういった面から、ルーチンワークをキッチリと遵守させること、ルーチンワークに改善を加えることに関して、タスクに焦点をあてるタスク志向型リーダーの方がパフォーマンスが高くなる。

 タスクが単純すぎず複雑すぎない場合は、制御可能な創意工夫の余地がかなりある場合であることが多い。タスクが複雑すぎる場合は改変の影響がどうなるのか予測不可能であり、タスクが単純すぎる場合は「やれることが枯れ切っている」ので既に最適化されていて、前述の通り逆効果になることも少なくない。しかし、タスクが単純すぎず複雑すぎない場合は創意工夫のチャレンジに関して開かれているタスクであることが多いのだ。

 このとき、タスクに関する創意工夫のチャレンジに対して重要な要素が、その職場における心理的安全性である。チャレンジ失敗に対して「ドンマイ!」と周囲が受け止める文化がなければ、わざわざチャレンジしてやろうというモチベーションは起こらないだろう。フォロアーのチャレンジに関する心理的安全性の確保は、周囲に対するフォローも含めて人間関係志向型リーダーの得意とするところである。タスク志向型リーダーはどうしてもタスクの成功・失敗の方に目が向けがちであり、チャレンジ失敗時の失敗者や周囲へのフォローをおろそかにして、チャレンジへの心理的安全性を損ないがちである。このため、チャレンジ文化の醸成がパフォーマンスに大きく影響を与えるタスクが単純すぎず複雑すぎない状況においては、人間関係志向型リーダーの方が、タスク志向型リーダーよりもパフォーマンスが良くなるのだ。


■リーダーの権限の強さとリーダーシップのタイプ

 さて、リーダーの権限が強い乃至は弱いときが、タスク志向型リーダーのパフォーマンスが高い。一方、リーダーの権限が強すぎず弱すぎないときは人間関係志向型リーダーのパフォーマンスが高い。これから、なぜそうなのかについて確認していこう。

 リーダーの権限が強いときにタスク志向型リーダーのパフォーマンスが高いのは、権限と責任の比例関係を考慮すれば当然のことである。リーダーの権限が強ければリーダーの責任は重い。このような立場においても、人間関係志向型リーダーであれば、フォロアーに対して必要以上の配慮をしてしまう。つまり、結果責任を取らないフォロアーが「緩い仕事」を望んだときに人間関係志向型リーダーだとその声を排除しきれないのだ。一方、タスク志向型リーダーであれば自分が責任を取り、またフォロアーを動かす権限があるのだから、タスク処理にあたって不必要なフォロアーの声を遮断することができる。それゆえ、リーダーの権限が強いとき、タスク志向型リーダーの方が人間関係志向型リーダーよりもパフォーマンスが高くなる。

 また逆に、リーダーの権限が弱いときにもタスク志向型リーダーのパフォーマンスが高くなる。リーダーの権限が弱い状況というのは、リーダーが融通を利かせることが出来ない状況である。フォロアーの「リーダーは融通を利かせて欲しい」との要望に対して、人間関係志向型リーダーは「リーダーが重視する人間関係」を人質に取られることがある。しかし、リーダーの権限が弱いのだから、そもそもフォロアーの要望が叶う可能性は低い。したがって、人間関係志向型リーダーは内部的・外部的な調整に余計なリソースを割かざるを得なくなる場合が出てくる。一方、タスク志向型リーダーはフォロアーからの要望に対して自身の権限の無さからアッサリと断ることができる。オフィシャルなタスク処理を前面に出すことでフォロアーへの配慮がそもそもできないことを示し、フォロアーの要望によって生じる内外の調整に掛かる余計なリソースを削ることができる。それゆえ、リーダーの権限が弱いとき、タスク志向型リーダーの方が人間関係志向型リーダーよりもパフォーマンスが高くなる。

 リーダーの権限に関して強すぎず弱すぎない場合は、人間関係志向型リーダーの方がタスク志向型リーダーよりもパフォーマンスが高くなる。この状況はリーダーの権限が強くないためにフォロアーの協力が必須である。さらに、この状況において重要なことは「One for All, All for one」の価値規範が醸成されていることである。このような利他的な価値規範は、リーダーとフォロアーおよびフォロアー同士に感情的紐帯が形成されていないと受容されることは難しい。利益共同体となるシステムが在る場合はタスク志向型リーダーシップであっても利他的価値規範をフォロアーに受容させることができるだろうが、フォーマルな形で利益共同体となるシステムがないときは、タスク志向型リーダーシップではその価値規範をフォロアーに受け入れさせることはできないだろう。したがって、人間関係志向型リーダーの方がタスク志向型リーダーよりもパフォーマンスが高くなる。

 また、リーダーの権限に関して強すぎず弱すぎない場合は、先に述べた「融通を利かせる」という面で見たとき、程度にもよるがリーダーはフォロアーに融通を利かせることが可能である。とはいえ、タスク志向型リーダーであるとき、「融通を利かせる」ことはタスク処理において必要であったから行うという意味しかもたない。しかし、人間関係志向型リーダーにおいては「融通を利かせる」ことはフォロアーに対する「貸し」をつくることであり、フォロアーはリーダーに対する「借り」をつくることである。すなわち、融通を利かせたことで人間関係志向型リーダーは道義上のインフォーマルな債権債務関係をつくり出せるのだ。この道義上のインフォーマルな債権債務関係は、タスク処理における調整を円滑にさせる働きがある。この内部調整を容易にさせるインフォーマルな債権債務関係を創造できることが、人間関係志向型リーダーの強みである。これらの要因から、人間関係志向型リーダーの方がタスク志向型リーダーよりもパフォーマンスが高くなる。

 とはいえ、昨今の風潮は会社組織等においてはインフォーマルな債権債務関係―—「貸し一つ、借り一つ」といった関係――が排除されつつある。相互主義と言いつつ、負担側に立つことのない受益側からの要求のみが目立つようになっている。「貸し一つ、借り一つ」といった厳格な相互関係はむしろ会社組織等においては、悪しき伝統のような扱いをされている印象があるので、人間関係志向型リーダーは今後の日本企業を含めた会社組織等においてパフォーマンスが落ちるかもしれない。


■リーダーシップのタイプと性格類型

 以上、コンティンジェンシー理論からみたリーダーシップを確認したが、タスク志向型リーダーシップと人間関係志向型リーダーシップは相当違う。また、それが有効な状況もまた異なる。そして、優れたリーダシップを発揮するリーダーに関して、ENTJやESTJはタスク志向型リーダーシップを発揮していることが多く、ENFJやESFJは人間関係志向型リーダーシップを発揮していることが多い。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?