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しまむら炎上はキャンセル・カルチャーなのか?

■バースデイのコラボ商品炎上のジェンダー差別問題の側面

 しまむらの子供服ブランド「バースデイ」が現代美術作家の加賀美健氏とコラボしたTシャツ・靴下・ヘアバンドが炎上した。商品に印字された文言は、父親側は「パパは全然面倒みてくれない」「パパはいつも帰り遅い」「パパはいつも寝てる」といったネガティブな文言である一方で、母親側は「ママがいい」「ママいつもかわいいよ」といったポジティブな文言である。実際に問題となった商品の写真を確認しよう。

問題となったバースデイのコラボ商品のひとつ

 当たり前のことだが「一方の性別はネガティブ、他方の性別はポジティブ」というジェンダー非対称な表現はジェンダー差別的表現である。フェミニストが「ジェンダー平等が大切!」と散々に騒ぎ立てたことによってジェンダー平等意識が高まった日本において、ここまで明らかなジェンダー差別が炎上しない訳が無い。以前はフェミニストがジェンダー差別問題を煽りてていたので「女性のジェンダー差別だけ」が騒ぎになったが、ジェンダー平等意識が一般的になりつつあるので「男性のジェンダー差別」も漸く取沙汰されるようになったと言えるだろう。

 この炎上騒動はいくつものメディアで取り上げられている。その中の一つの記事を確認しておこう。そして、そこで紹介されたSNS上の声から炎上した当該コラボ商品が如何なるジェンダー差別問題を含んでいるのか考察しよう。

 この新作アイテムが、発売前日の7月28日にSNSで告知されると、Xでは「パパへのディス(侮蔑)がひどすぎる」「『パパ』と『ママ』が反対だったら大炎上している」「男性の育児参加が当たり前の時代に逆行しているのでは」といった論調から、批判的な反応が相次いだ。

「パパなら皮肉ってもいい」風潮はいまだに存在? 
;しまむら「パパ貶す服で大炎上」への強烈な違和感
城戸 譲 2024.7.31 東洋経済オンライン

 さて、当該コラボ商品ではパパがネガティブ、ママがポジティブにとジェンダー非対称的に扱われているため、当該コラボ商品がジェンダー差別的商品であることは確定的である。そして更なるジェンダー差別問題として「女性に対するジェンダー差別的商品であったならば通らない企画が、男性に対するジェンダー差別的商品の企画であったが故に通るという風潮のジェンダー差別性」がある。また、育児分野で父親だけをジョークの対象にする風潮が齎す父親の育児参画への悪影響というジェンダー平等に向けた社会の動きの阻害要因となる問題がある。つまり、当該コラボ商品のジェンダー問題は以下の3つの別次元のジェンダー差別問題が存在している。

  1. それ自体がジェンダー差別である

  2. 「ジェンダー差別を認識すること」に関してジェンダー差別がある

  3. そのジェンダー差別がジェンダー差別的社会構造を再生産する

 この1.~3.をもっと抽象化すると以下になる。

1'.ある事態Xが問題である
2'.ある事態Xの認識のされ方が問題である
3'.ある事態Xが別の問題事態Yを引き起こす問題である

 ジェンダー差別問題の側面から当該コラボ商品の問題を見たとき、上記の3つの全く異なる種類の問題が存在する。この問題のジェンダー差別問題の側面を考えるときには、1'.~3'.の問題を混同しないように考える必要がある。

 とはいえ、当該コラボ商品の問題は目に付きやすいジェンダー差別問題より遥かに重大な問題を孕んでいる。それは、子供にとって親となる人間を他方の親が子供の目の前でバカにするという、子供への心理的虐待問題である。ハッキリいって、ジェンダー差別問題などオマケのようなものだ。当該コラボ商品は子供への心理的虐待となるから販売が中止されるべきなのだ。

 次節において、このことを中心に取り上げよう。


■コラボ商品販売中止はキャンセル・カルチャーか?

 当該商品に対する批判を受けてしまむらは販売中止を決定した。その際のしまむらの販売中止のおしらせと謝罪が以下である。

 「この度、弊社で販売いたしました『加賀美健』さんとのコラボ商品の一部商品につきまして、ご不快な思いをさせてしまう表現がありましたこと、深くお詫び申し上げます。皆様から頂いたご意見を検討した結果、商品の販売を中止させて頂くことと致しました。今後この様なことがないように、お客様視点に立った商品企画を行ってまいりますので何卒よろしくお願い申し上げます」

同上

 このしまむらの販売中止の対応を巡って、以下のようなキャンセル・カルチャーではないのかといった批判もまた出ている。

 インスタグラムに目を向けると、バースデイに好意的な反応が目立つ。謝罪投稿には「ネタに反応するなんて世知辛い」「販売中止はやりすぎでは」「これに反応する人は、心当たりがあるのでは」「いちいち謝罪するとクレーマーが増えるだけ」といった論調から、コラボを擁護するコメントが並んだ。

同上

 一方で、販売停止は過剰反応では?という指摘もみられる。遊び心として受け止めるべきだという意見の消費者は「心に全くゆとりが無い」「嫌なら買わなきゃいいだけなのに」「別に停止しなくてよかったのでは?」「生きづらい世の中ですね」などと主張し、停止を残念がっているようだ。

しまむら「バースデイ」Tシャツ炎上騒動→販売停止
;一夜あけても賛否「生きづらい世の中」「虐待を助長」
2024.7.31 中日スポーツ

 しかし、キャンセルカルチャー批判をしている人間は、根本的なところで勘違いしている。子供服である当該商品の販売は、男性へのジェンダー差別問題ではなく子供への虐待問題であるから販売が中止されるべき問題である。言ってみれば「危険性が判明した玩具の販売中止問題」と類似の問題なのだ。もちろん、当該商品の販売は男性へのジェンダー差別問題も含んではいるのだが、当該商品はジェンダー差別問題を脇においても販売されるべき商品ではないのだ。

 ここで、当該商品の問題が子供への虐待問題であることを確認しよう。

 先に結論を示しておくと「人前で相手をバカにすること」は精神的DVにあたり、かつ、子供の前で行われる配偶者へのDVは、面前DVと呼ばれる子供への心理的虐待に当たるから、当該商品の問題は子供への虐待問題となる。

 ここで以下の内閣府男女共同参画局のサイトにおける児童虐待の説明より、必要な部分を引用しよう。

子ども自身が直接暴力を受けている場合は当然ですが、子どもの見ている前で夫婦間で暴力を振るうこと(面前DV)は子どもへの心理的虐待にあたります。

DV(ドメスティック・バイオレンス)と児童虐待 ―DVは子どもの心も壊すもの―
内閣府男女共同参画局
出典:DV(ドメスティック・バイオレンス)と児童虐待 ―DVは子どもの心も壊すもの―

 「パパは全然面倒みてくれない」「パパはいつも帰り遅い」「パパはいつも寝てる」といった、父親をバカにするネガティブな文言がプリントされた服を子供に着せることは、子供の面前で為される人前でのパートナーへの精神的DVに等しい。子供からみると父親をバカする文言が衆目に晒される自分の服にプリントされている。そんな服を母親から着用させられることは自分の面前で為される人前での母親から父親に対する精神的DVと言えるため、子供に対する心理的虐待となるのだ。

 したがって、当該コラボ商品の販売中止の理由は「子供への心理的虐待を防止する」であって他の理由はオマケに過ぎない。それ以外の販売中止理由はあろうがなかろうがどうでもいい。したがって、当該コラボ商品の販売中止はキャンセルカルチャーとは言えないのだ。


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