鷲羽岳に恋して(3日目)
黒部五郎小舎の朝ご飯は早い。
4時半に食堂へ。
北アルプス奥黒部縦走登山3日目は、
おっさんと別行動だ。
おっさんは、この日の宿泊地双六小屋へ直接向かって、ゆっくりする日なので、朝ごはんが早い事に文句を言っている。
そして、食事の後、7時まで山小屋に居たそうだ。
私は3日目は挑戦登山。
前日の黒部五郎岳への長い歩きに疲れが出なければ、鷲羽岳をピストンしてから双六岳に向かう計画だ。
目覚めはすこぶる良い、足の疲れもない。
「私は、鷲羽岳登って来ますよ!双六小屋16時までに行きますね。」
と伝え、5時半に山小屋を出発した。
スタートは小屋の裏から、小さな山を超える。昨夜は雨が降って、岩はツルツルと滑る。山を少し上がったところで振り返ると、昨日登った黒部五郎岳が見える。
水色のTシャツ姿の男性が、
黒部五郎岳の山頂に沸いた雲が退くのを待って、カメラを構えているが、なかなか雲は退く様子がない。
さらに上に登っていくと、ピンクのTシャツの女性が、
「水色のTシャツを着た男の人、見ませんでしたか?」
と聞いて来た。あっ、と思い
「この下で、カメラを構えていましたよー」
と伝えると、
「どれだけ待たせるのかしら?」
と、ちょっとイラッとした表情をしていた。
このご夫婦とは、この後、同じ会話を3回する(笑)
鷲羽岳に向かうには、
三俣蓮華岳の山頂経由で向かうルートと、三俣蓮華岳の山頂を通らない巻道コースがある。鷲羽岳へ登る体力を温存したいので巻道を行く、途中雪渓を渡るようだが、大丈夫だろうか?
ここが巻道?沢を越え、岩場を越える。
と、見えてくる鷲羽岳。
ぬーっと、頭を出す鷲羽岳。
遠くに見えていた時には感じなかった怖さ。目の前に鷲羽岳が覆いかぶさって、襲われるんではないか?と恐怖を感じた。
象の様な長い鼻、翼を左右に大きく広げ、右の翼の先には鋭い爪さえ持っている。
「怖い、登るのはやめようか?」
「鷲羽岳」という山を知ってから、ずっと登ってみたいと思っていた山、憧れていた鷲羽岳。目の前にして後退りする。
ここまで歩いて来たんだ。
とりあえず、見えて来た三俣山荘まで向かう事にした。
雪渓の狭いところを見つけて渡る。
太陽の暖かさで溶け始め、シャーベットの様だったので、安全に渡れる。
三俣山荘のテント場を抜けて、三俣山荘に到着した。
見える角度が変わったから、さっきの怖さは無くなった。
「よし、鷲羽岳さん、会いに行くよ!」
ザックをアタックザックに変えて、
身軽になって、鷲羽岳に挑む。
長いお鼻に登山道がある。
お鼻に取りついて、ザラザラの斜面を登っていく。
滑らかそう見えていた鷲羽岳の鼻は、ザラザラだ。
鷲羽岳さん、あなたの鼻は岩場なのねー
赤い岩で出来ていたのね。
鷲羽岳と会話する様に、登っていく。
上に行くほど、岩は大きくゴロゴロしている。
そして、とうとう池が見えた。
鷲羽池だ。青く澄んだ水を讃え、空の雲を映し輝いている。鷲羽岳の瞳は優しく登山者を見つめている様だ。
そして山頂!
きれいだ。北アルプスの山々が一望出来る。素晴らしい!
鷲羽池の向こうの槍ヶ岳の上には、
怪しい雲が動いている。
熱心に写真を撮っている方に、写真を頼むと、韓国人のご兄弟だった。
鷲羽池をバックに槍ヶ岳を入れて写真を撮ってもらう様にお願いした。
この韓国人のご兄弟も、この石に座って写真を撮って、日本は素晴らしい!を連発していた。
見たかった鷲羽池、登ってみたかった鷲羽岳、鷲羽池の前でしばらく休憩して、名残惜しが下山する。
鷲羽池にちょっと近づくと、目の中はお花畑だった。
下山は、登りほどの辛さはなく、あっという間に三俣山荘に到着した。
達成感と、心地よい疲労感と高揚感でふわふわしていた。
1時間程ランチ休憩をして、鷲羽岳を後にした。
今日のゴールはここではない。
さぁ、歩き出そう。鷲羽岳さんありがとう。また会いたいよ。
つづく
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