見出し画像

急に寂しくなる夜に

妙に気分がいい夜に限って、不意にやってくるこの寂しさは

一体なんていう名前なの?


なんだか今日は気分がいいわ。

そうだ、こんな夜には明るいあの曲を聴こう!


流れ出す音符の波が押し寄せてきた瞬間

急に寂しさが心に広がるの


そう、これは楽しかったあの日に聴いた曲だったわ

楽しかったって言ったって、三ヶ月ぐらい前よ

大学生だった頃、サークルの最後の合宿

雪景色が広がる長野に向かうバスの中で聴いていたんだ


4年前、1年生で入りたての私は合宿に向かうバスで

隣に座ってくれる友達がいなかったらどうしようなんて

そんなことばかり考えていたわ

ハブられるのが怖かったの


最後の合宿、行きのバスの隣にはあの時と同じ友人が座っていたわ

最初の合宿で隣に座ったあの子の隣に

あの日のことも鮮明に覚えている

とにかく、緊張してて話すこともなくて、外ばかり見ていたの

でも皮肉にも、あまり景色のいい方ではなかったから

ずっと考え事をしていたわ

クリスマス前に私のことを振ったあの男の子のこと


最後の合宿でまたあの子の隣に座るなんてね

嬉しいし、勝手に運命を感じているのよ

もう誰もあの時のようにそわそわせずに、自分の好きなように過ごしていたわ

すぐ寝る人も、イヤホンをすぐにつける人(私)もいたけど

本当に気を使わなくていいって楽ね


そのバスの中で、この曲を聴いていたの

埼玉から群馬に入って、山々を超えるとだんだんと雪が増えていくのね

遠くに見える山脈と澄んだ青い空を見ているとなんだか落ち着くの

耳からはカリプソの音楽が流れていて

長野じゃなくて南国行きの船に一人で乗ってたの


ふふ


何気取ってんだって?


でも、この曲を今夜聴いたら悲しくなってしまったの

屈託のない明るい音楽なのに、涙が止まらなくて

あの日と同じ私なのに、胸がぎゅうって苦しくて


変わったのは、隣にあの子がいないこと

後ろの友人の声が聞こえないこと

斜め後ろで寝ている彼女たちがいないこと


もうあの合宿所へ行くことはないということ


いつも思うの

自分が死ぬときにどんな走馬灯を見るかって

きっと一瞬よ大学生活のことなんて

でもね、あの長野のロッジは出てくるわね

ううん6時間も乗っていたバスかもしれない


わかっていたはずなのに

寂しいわ