カインは言わなかった(芦沢央)

芸術と呼ばれる類のものに私は無知である。しかし、自分はこの作品を楽しむことができていますよ、理解できていますよ風に眺めるふりをすることが得意である。または好きとも言える。
本書を読んで、私はあくまでも本当に作品の表面上のみの視野でしか見ていないということを再確認せざるを得なかった。なぜなら、本に出てくる芸術家を仕事とする登場人物の心理描写に共感よりも狂気を感じたからである。芸術という基準があいまいで不確かなものを仕事とするには、実力ももちろんだが運も相当作用する。そのような厳しい世界だからこそなのかもしれないが、一つの作品にかけるじっとりとした執着のようなものが、私にとっては不気味だった。
本書では主に画家と踊りという芸術に触れている。自分にとって踊りは見るのも含めとても好きなもののひとつである。だが、趣味の範疇でしかない。
本書を読み終えて、芸術作品を鑑賞するとき、そこに本気で関わる者たちの危うさを想像せざるを得なくなった。

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