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ⅴ. 作品の窓②「赤い砂の崖の島」

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ニューヨーク州ロングアイランドの先住民「シネコック」とは、「石の多い浜の人々」という意味だという。

ロングアイランドの浜辺は、場所によってさまざまな表情を見せる。美しい白い砂浜、静かな石の多い浜、ガラスのように透明な小石や、色とりどりの小石でいっぱいの浜もある。土地の古い名前とそこにあった物語を知ると、風景は知らなかった姿を見せる。物語は、誰かの眼差しで世界を見る窓であり、時を超えるものでもある。そのことを強く感じたのは、シネコックのシェーンが教えてくれた物語のひとつ、「鯨をもたらした巨人」の話を聞いた時だった。

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「モーシャップという巨人の話がある。モーシャップは人々とともに生きていた巨人だった。彼の存在はアメリカ合衆国の北東部各地で知られていて、彼にはいくつもの異なる名前がある。私たちの物語では、モーシャップは鯨をもたらす存在だった。一時期、彼はナンタケット島に住んでいたそうだ。そこには赤い砂の崖がある。モーシャップは海で鯨を掴んでナンタケット島に運び、その崖に叩きつけたと語られている。そしてその鯨を人々に与えた。」

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ナンタケット島はマサチューセッツ州のケープコッドから約50キロメートル南にある島だ。私はまだ訪れたことのないナンタケット島の、鯨の血のように赤い砂の崖を想像した。物語と風景が重なってひとつのイメージとなり、その土地と海で、巨人とともに生きた人たちが見ていた世界が立ちあがる気がした。

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テキスト抜粋:『ありふれたくじら』Vol.6より

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