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iii. 作品の窓①「その島のかたち」

2019年3月11日、仙台から成田空港を経て、ニューヨークへ向かった。12時間のフライトは、日付変更線を超えて、時の流れを逆向きに移動していく。薄暗い機体の中、小窓のカバーを開けると眩しい光が差し込んできた。くっきりとした白雲の塊が一面に広がる空を飛んでいた。現地到着は午後4時だ。ジョン・F・ケネディ国際空港に近づき、機体が高度を下げていく。

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眼下に白波の立つ海が広がっていた。前方に平坦な陸地が現れて、その手前に、ちぎった紙を散らかしたような大小の砂洲がいくつも見えてくる。真っ白な砂浜を抱えたものに、海と同じ色の水たまりが染み出して、海に溶けてしまいそうなもの。人の気配の無い砂洲のすぐ後ろの陸地には、海岸線ぎりぎりまで家々が並ぶ。都市のはずれなのだろう。自然の動くままに形作られた海岸線のすぐ側に、きっちりと整備された道路と区画、四角と三角の家々が並ぶ風景は、なにか均衡を失っているようでもある。これが、私が初めて空から見たロングアイランドの印象だった。

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ロングアイランドはニューヨーク州南東部に位置する島だ。主要空港であるジョン・F・ケネディ国際空港はロングアイランドの西端にある。この島は、1,000年以上、生活を営んできた先住民とヨーロッパからの入植者が最初に接触した場所でもある。今回の旅の訪問先であるシネコック・インディアン・ネーションに近いサウサンプトンの町は、ニューヨーク州で最初に設立されたイギリス人の入植地だ。

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今は海辺のリゾート地として知られ、豪華な別荘が並び、切り拓かれた森にはゴルフ場が広がる。2019年の3月と9月、私はシネコック・インディアン・ネーションを訪れた。3年前の2016年に訪れたアラスカ州の知人から「ニューヨークに鯨とかかわりのあるネイティブ・アメリカンがいるそうだ」と聞いたことがきっかけだった。この島と、シネコックの人々と、鯨はどのような物語を編んできたのだろう。

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テキスト抜粋:『ありふれたくじら』Vol.6 より

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