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そこでことばがうまれる。

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「ひとつの土地一冊の本」をめざしながら、鯨の話を探して訪れた土地の物語を、刺繍の挿絵とともに纏めてきた小冊子のシリーズ『Ordinary Whales / ありふれたくじら』。最…
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目次|そこでことばがうまれる。〜リトルプレス『ありふれたくじら Vol.6』を読む・観る・語る、オンライン・プレス〜

{ 2020年10月1日版} i.  そこでことばがうまれる。 ii. {往復書簡}「本を編む、そのさきの風景」/文=岡澤浩太郎・是恒さくら iii. 作品の窓①「その島のかたち」 {2020年10月8日版} ⅳ. {対談}「海を旅して見る、風景と物語」/鈴木克章・是恒さくら|前編「風景が語りだすとき」 ⅴ. 作品の窓②「赤い砂の崖の島」 {2020年10月15日版} ⅵ. {対談}「海を旅して見る、風景と物語」/鈴木克章・是恒さくら|後編「鯨に出合うとき」 ⅶ. 作品の

xiv. 作品の窓⑥「パウワウ」

シェーンからシネコック・インディアン・パウワウについて聞いた時、不思議な話をひとつ聞いていた。ある地元の漁師が過去2年間、パウワウが開かれている間に、500頭ほどの鯨の大群が東へと移動しているのを見たという。鯨は移動を始めると一緒に行動するから、ありうる話だとシェーンはいった。彼はまた、「労働者の日を起点に、サウサンプトンからあらゆるものが移動するようだ。ミサゴ、魚、観光客、そして鯨も。」と言った。パウワウが終わる前、私は海に行き、しばらく眺めていた。けれど、一頭の鯨も見つけ

xii. 作品の窓⑤「誰もが小さなパズルのピースを持っている。」

「誰もがひとりひとり、シネコックである何かを持っている。料理が上手い人もいれば、狩猟や釣りが上手い人もいる。みんなが集まって教え合うことができたら素晴らしいことだ。誰もが小さなパズルのピースを持っている。日々の生活は、時間をかけた学びだから。」 海に生きてきたシネコックの人たちにとって、鮮やかな紫と白が美しい、貝殻製のシェルビーズは大切な装飾のアイテムだ。 *** 日本の沿岸部の民俗や伝承を調べていると、鯨は良いものと悪いものどちらも運んでくる存在だったとわかる。それは

ⅹ. 作品の窓④ 「鯨を呼ぶ人」

「いつもどこかで鯨を見かけるようになってから、私はまわりの人から〈鯨を呼ぶ人〉と呼ばれるようになった。漁船で働いた頃、船長が何年も海に出ていた人だったけれど、鯨を見たことがないと言った。そこへ私が行くと、毎回鯨が現れた。そういうことが起きてきた。」 「私たちシネコックは鯨獲りでもあった。鯨が浜に打ち上がるのを待っていただけではない。私たちは100人乗りのカヌーを持っていて、何日も航海することができた。銛を使って鯨を獲った。銛にはロープが結びつけられていて、そのロープは丸太に

ⅶ. 作品の窓③「鯨の贈り物」

「もう25年も前のことだ。アラスカ州ウェールズから来たひとりの男に会った。彼は先住民イヌピアックで、鯨獲りとして生きてきた私たちシネコックの歴史について、当時の私より詳しく知っていた。」 「アラスカに住む彼を訪ねていた、ある日のことだ。私たちはデッキに座っていた。夏の白夜の時期だった。彼は一枚の鯨髭を取り出した。」 その鯨髭の幅広い方の端には、ホッキョククジラの絵が細い線で刻まれていた。 「彼はこう言ったんだ。『君がこれを持ち帰れば、君たちシネコックの鯨獲りとしての

ⅴ. 作品の窓②「赤い砂の崖の島」

ニューヨーク州ロングアイランドの先住民「シネコック」とは、「石の多い浜の人々」という意味だという。 ロングアイランドの浜辺は、場所によってさまざまな表情を見せる。美しい白い砂浜、静かな石の多い浜、ガラスのように透明な小石や、色とりどりの小石でいっぱいの浜もある。土地の古い名前とそこにあった物語を知ると、風景は知らなかった姿を見せる。物語は、誰かの眼差しで世界を見る窓であり、時を超えるものでもある。そのことを強く感じたのは、シネコックのシェーンが教えてくれた物語のひとつ、