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fieldnotes(日々の記録)

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リトルプレス『ありふれたくじら』の制作プロセス、随筆、うつろいかたちを変えていく思考の記録、などなど。不定期の投稿は、こちらのマガジンにまとめていきます。
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#ありふれたくじら

P.12|ノルウェーと日本の間、ある船の記憶をたぐる / Drawing a memory of a ship between Norway and Japan

(English follows.) ノルウェーに来てから半年が過ぎました。滞在の折り返し地点です。4月下旬からオスロにて最初の展示を行います。会場はオスロ大学図書館の展示スペースです。こちらで参加している研究プロジェクト「Whales of Power」との展示です。 ここ半年ほど手繰っていた物と語りを紹介します。 ---------- それは一枚のガラスネガから始まった。撮影者はヘンリク・G・メルソム。1900年前後に日本の捕鯨船で活躍したノルウェー人砲手だ。20世紀

P.11|とらう / Catch

(「VOCA展2022 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」出品作に寄せて) 10代の春休みの一時期、広島県の瀬戸内海にある故郷の島で「漁網編み」のアルバイトをしたことがあった。だだっ広い工場の2階、3〜4名の女性たちが片膝を立てて座り、ゴザの上に広げられた大きな漁網を編み進んでいく。黒光りするナイロンの糸は硬く、仕事を始めたばかりの私の指は3日もすると絆創膏だらけになった。 急にそのことを思い出したのは、それから約15年後のこと。東北で暮らすようになり、2018年に

P.8|「網走のカラス」のこと

2016年の夏頃、気になるニュースが目にとまりました。アラスカからロシアに向かって弓形に延びるアリューシャン列島の小さな島に打ち上げられた鯨が、新種らしいとわかったこと、そしてこの鯨が、日本の北海道・網走の漁師たちの間で「カラス」と呼ばれ、昔から知られていた存在だったということでした。 (2019年、このクジラは「クロツチクジラ」として発表されました|プレスリリース 国立科学博物館/北海道大学) カラスと呼ばれるその鯨は、どんな風景のなかにいるのだろうと、気になってしょう

news|「石の知る辺」...ロングアイランドへの旅と、北海道立北方民族博物館の展示のこと

北海道立北方民族博物館にて、ロビー展「石の知る辺~アメリカ・ニューヨーク州ロングアイランド、先住民シネコックに鯨の物語をたずねて~ 是恒さくら 本・刺繍・写真展」(2021.01.05〜24)がはじまりました。(展示の詳細はこちら) 2019年に訪れたアメリカ・ニューヨーク州ロングアイランドで、先住民シネコックの人々と鯨のかかわりを尋ねた旅の記録の写真とともに、鯨にまつわるエピソード、そこから着想された刺繍作品を紹介します。刺繍作品群は昨年発行したリトルプレス 『ありふ

『ありふれたくじら』Vol.6 刊行のお知らせ

リトルプレス『ありふれたくじら Vol.6:シネコック・インディアン・ネーション、ロングアイランド』 2019年、アメリカ合衆国ニューヨーク州・ロングアイランドを旅した。この島に暮らし、古くから鯨を利用し敬ってきた先住民シネコックを訪ねた。かつてロングアイランドの近海ではたびたび鯨が見られていたが、一時代に盛んだった捕鯨活動や船舶の往来により長い間姿を消していたという。近年、ふたたび鯨が現れるようになったこの島の海で、人と鯨はどのような物語を編んでいるのだろう。『Ordin

p.6|あなたにとっての青、わたしにとっての赤

8月です。 仙台は雨雲が去り、夏らしくなってきました。岩手県盛岡市・Cyg art gallery で毎夏開催されているART BOOK TERMINAL TOHOKU 2020が始まりました。私は2016年の開催時から毎年参加しています。 今日は、今年出品している新作のポストカード・ブック『あなたにとっての青、わたしにとっての赤』の紹介を。 ポストカードであり、本。ページは袋状になっていて、切手を貼って使っていただけるポストカードが1ページに1枚、入っています。これま

p.5|ことばの接点

今日で6月が終わる。2020年の半分が過ぎた。生活の中のさまざまなことが少し違う日常として戻ってきたこの一ヶ月は、ふりかえると大きな変化があったのかもしれない。最近、街中のアーケード商店街に行ってみると、人出はかなり増えた。けれどここ1週間くらい、宮城県内でも再び新型コロナウイルスの感染が報告されている。ものごとが再び動き出すペースと、見えないものの影響とが、どう関係していくのか予測できない不安がある。 街が静かになって、多くの人が自分や近しい人たちだけの空間に閉じこもって

p.4|物語のしっぽ / Tails of a tale

このところ、ビーズ刺繍、糸刺繍、鉛筆画で同じひとつのイメージを描いていた。『ありふれたくじら』Vol.6の挿絵につながるイメージ。素材によって生まれる変化がおもしろい。 手仕事の繰り返しは、受けとる情報が日々変わる予測できない不安の中でも、今日から明日へ続いていく日常を作り出していく。 このイメージは、あるひとつの考古遺物のことを調べながら芽生えてきた。 2019年の春、ニューヨーク州アルバニーのニューヨーク州立博物館に収蔵されている平板(タブレット)を見に行った。19

p.3|鯨が運んできたもの〜〈向こうがわ〉を眺める

最近、岩手県大槌町の伝承を思い出していた。 "大槌町に「鯨山」という山がある。かつてこの辺りに、疫病が発生したことがあった。大槌の浜に打ち上がった鯨を食べた人が元気になったから、周辺に住む人たちが鯨を求めてこの山を目印に集まってきたことに由来する。また、鯨が大漁だった時に人々がこの山に集まったとも言われる。"(参考①、他) 数年前、鯨山に登ってみた。山頂から湾が見渡せた。山頂の社には石作りの「権現様」(獅子頭)がいくつも祀られていた。海沿いから見上げるとまわりの山々より高

p.2|アラスカの人、日本の人。一緒に鯨を食べる。

数多くの生き物がいるなかで、なぜ鯨を扱おうと思ったのか。ふりかえると、米国アラスカ州で暮らした頃の体験がきっかけだった。2006年から2010年まで、アラスカ州の大学の芸術科で学んだ。高校生の頃にアラスカの先住民芸術に興味を持ったことから留学しようと決めた。大学の先住民芸術のスタジオでは、教員も学生も先住民の血をひく人がほとんどだった。学期の終わりになると「ポトラック」という持ち寄りの食事会がひらかれ、地方の町や村にルーツを持つ教員や学生は、それぞれの故郷でとれたものや、

p.1|はじめに。

2016年から、国内外各地の鯨にまつわる話を集め刺繍画とともに本に綴ったリトルプレス『ありふれたくじら』を発行しています。 宮城県石巻市と牡鹿半島、米国アラスカ州ポイント・ホープ、和歌山県東牟婁郡太地町、北海道網走市、宮城県気仙沼市を訪ね、2018年末までの約2年間でVol.1〜5を発行しました。ひとつの号でひとつの土地の世界を伝えよう、と考えながら発行した5巻。いずれも捕鯨や鯨猟がおこなわれていたり、鯨への信仰があるなど、人と鯨が身近にかかわってきた土地でした。 現在、

「くじらの見える書窓」をはじめました。

3月以降に予定されていたいくつもの展示やイベントが中止・延期となり、準備を進めてきたいろいろなことが突然停止して、静かな時間がうまれました。 これまでのような展示の場を持つことも、多数の人と直接会うこともはばかられる日々はしばらく続くでしょう。けれど私個人の生活の中で、表現にかかわる活動は続いています。展示やイベントの場をひらける日はいつかは戻ってくると信じているけれど、その日その時それ以降、これまでと同じようには、そこにある表現に向き合えないのかもしれません。 今回no