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fieldnotes(日々の記録)

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リトルプレス『ありふれたくじら』の制作プロセス、随筆、うつろいかたちを変えていく思考の記録、などなど。不定期の投稿は、こちらのマガジンにまとめていきます。
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#鯨

P.16|国際芸術センター青森「currents / undercurrents -いま、めくるめく流れは出会って」 / Aomori Contemporary Art Centre “currents / undercurrents : Bringing together the endless flow” (2024.7.13〜9.29)

English follows Japanese. 青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)での展覧会「currents / undercurrents -いま、めくるめく流れは出会って」の後期が始まりました。 私の作品の展示会場はギャラリーBからギャラリーAに移動。「結目」でとじられていた鯨の体がひらき、中に入れるように姿を変えました。鯨の体の中では二つの映像を上映しています。本作に寄せて書いた二篇の詩を、高知県・宮城県・北海道・青森県各地で私がこれまで出逢ったマッ

P.15|双子鯨の夢を見たら / If twin whales appear in my dreams

English follows Japanese. 国際芸術センター青森・ACACで開催中の展覧会「currents / undercurrentsーいま、めくるめく流れは出会って」にて発表している新作「双子鯨の夢を見たら」は、これまで私がめぐり合ったマッコウクジラたちそれぞれの異なる生と死に思いを馳せながら制作しました。 作品の中に、対となる詩を書きました。目の前にある現実と無意識のイメージ、夢と現実世界、あったはずの生と失われたもの。刺繍の表裏のような、二つの世界を語

P. 13 | 経緯、その鯨ほどの余白——是恒さくら展 / Sakura Koretsune Exhibition "The warp and woof of a whale of a tale" (北海道文化財団アートスペース / Hokkaido Arts Foundation Art Space)

札幌市にある北海道文化財団アートスペースにて、是恒さくら展「The warp and woof of a whale of a tale-経緯、その鯨ほどの余白」を開催します。 今回紹介するのは、一年間のノルウェー滞在中に取り組み始めた作品群です。 個展の開催は久しぶりです。個展をひらくことは、自分が探究·表現を続けていく途上、終わらない道の上で「現在地」を標として形にしていくことなのだなと思います。振り返ると過去3年間の2回の個展も北海道内で開催したので、今回の展示に向けて

P.10|汀線をゆく 〜《「せんと、らせんと」6人のアーティスト、4人のキュレーター》 (札幌大通地下ギャラリー500m美術館)に寄せて〜

​「日本人だから鯨が好きでしょう?」 そう微笑んで、私のお皿に山盛りの鯨肉を分けてくれた。 アラスカで暮らした頃、鯨猟の町で育ったクラスメイトの思い出。 私の生まれ育った瀬戸内海には、大型の鯨類はほとんど来ない。学校給食でも鯨を食べなかった世代の私にとって、鯨はそれほど身近とも思えない食べ物だった。けれど、その一皿を受け取ったときの満面の笑顔は、忘れられない瞬間となった。 昔は、よく食べていたのに。 昔は、飽きるほど食べたのに。 昔は、          。 鯨はいつも誰

news|「鯨寄る浜、海辺の物語を手繰る」(苫小牧市美術博物館・企画展「NITTAN ART FILE4:土地の記憶~結晶化する表象」のこと)

 鯨に導かれるように、海を伝うようにさまざまな土地を訪れてきた。ある時、苫小牧で聞いた話が、頭から離れなくなった。かつて苫小牧の浜辺が広い砂浜だった頃、砂山の上にあった恵比寿神社と稲荷神社に鯨の骨が祀られていたという。  それはどんな光景だったのだろう。なぜ人々は鯨の骨を大切にしたのだろう。さまざまな海浜植物が花を咲かせた広い砂浜も、鯨の骨が祀られたという神社も、すでに失われた、今。海辺に立ち辺りを見渡しても、かつての眺めを想像することは難しい。  東北から北海道南部の海

P.9|行間の風景: 1. 「砂山の鯨」

「行間の風景」を旅する宮城県石巻市、牡鹿半島の先端にある鮎川浜は鯨の町として知られる。長年鮎川浜で暮らしてきた女性は、「鯨は陸(オカ)から見てもいねぇんだもん」と言った。と。彼女の夫は捕鯨船の銛打ちだった。捕鯨船は一度漁に出ると一週間は戻ってこなかったそうだ。沖のずっと向こう、どこまで行ったかわからない、と。 鮎川浜の人たちと鯨の関わりはさまざまだ。海を泳ぐ鯨を見たことはないけれど、鯨料理が得意な人。鯨の歯の加工の仕事を継いできた人。捕鯨船乗りや鯨の解体士も。 鯨という巨

P.7|鯨めぐり(青森県青森市〜八戸市〜岩手県洋野町)

三陸沿岸部〜北海道沿岸部の漂着鯨にまつわる記録や伝承の連なりが気になって、調べている。 特に、鯨がイワシやニシンを連れて来る漁業の神と結びつけられる話の数々。それは、全国一律に「捕鯨は日本の文化」と語られるようになった時代以前の、土地に根ざしたものの見方のような気がする。 8月最終週末、青森県青森市〜八戸市〜岩手県洋野町の旅記録。 1. 諏訪神社(青森県青森市栄町) 陸奥湾に流れ込む堤川の河口近くにあるこの神社には、祭日にイルカの群が川をのぼり参拝するという伝説がある

『ありふれたくじら』Vol.6 刊行のお知らせ

リトルプレス『ありふれたくじら Vol.6:シネコック・インディアン・ネーション、ロングアイランド』 2019年、アメリカ合衆国ニューヨーク州・ロングアイランドを旅した。この島に暮らし、古くから鯨を利用し敬ってきた先住民シネコックを訪ねた。かつてロングアイランドの近海ではたびたび鯨が見られていたが、一時代に盛んだった捕鯨活動や船舶の往来により長い間姿を消していたという。近年、ふたたび鯨が現れるようになったこの島の海で、人と鯨はどのような物語を編んでいるのだろう。『Ordin

p.6|あなたにとっての青、わたしにとっての赤

8月です。 仙台は雨雲が去り、夏らしくなってきました。岩手県盛岡市・Cyg art gallery で毎夏開催されているART BOOK TERMINAL TOHOKU 2020が始まりました。私は2016年の開催時から毎年参加しています。 今日は、今年出品している新作のポストカード・ブック『あなたにとっての青、わたしにとっての赤』の紹介を。 ポストカードであり、本。ページは袋状になっていて、切手を貼って使っていただけるポストカードが1ページに1枚、入っています。これま

p.5|ことばの接点

今日で6月が終わる。2020年の半分が過ぎた。生活の中のさまざまなことが少し違う日常として戻ってきたこの一ヶ月は、ふりかえると大きな変化があったのかもしれない。最近、街中のアーケード商店街に行ってみると、人出はかなり増えた。けれどここ1週間くらい、宮城県内でも再び新型コロナウイルスの感染が報告されている。ものごとが再び動き出すペースと、見えないものの影響とが、どう関係していくのか予測できない不安がある。 街が静かになって、多くの人が自分や近しい人たちだけの空間に閉じこもって

p.4|物語のしっぽ / Tails of a tale

このところ、ビーズ刺繍、糸刺繍、鉛筆画で同じひとつのイメージを描いていた。『ありふれたくじら』Vol.6の挿絵につながるイメージ。素材によって生まれる変化がおもしろい。 手仕事の繰り返しは、受けとる情報が日々変わる予測できない不安の中でも、今日から明日へ続いていく日常を作り出していく。 このイメージは、あるひとつの考古遺物のことを調べながら芽生えてきた。 2019年の春、ニューヨーク州アルバニーのニューヨーク州立博物館に収蔵されている平板(タブレット)を見に行った。19

p.3|鯨が運んできたもの〜〈向こうがわ〉を眺める

最近、岩手県大槌町の伝承を思い出していた。 "大槌町に「鯨山」という山がある。かつてこの辺りに、疫病が発生したことがあった。大槌の浜に打ち上がった鯨を食べた人が元気になったから、周辺に住む人たちが鯨を求めてこの山を目印に集まってきたことに由来する。また、鯨が大漁だった時に人々がこの山に集まったとも言われる。"(参考①、他) 数年前、鯨山に登ってみた。山頂から湾が見渡せた。山頂の社には石作りの「権現様」(獅子頭)がいくつも祀られていた。海沿いから見上げるとまわりの山々より高

p.2|アラスカの人、日本の人。一緒に鯨を食べる。

数多くの生き物がいるなかで、なぜ鯨を扱おうと思ったのか。ふりかえると、米国アラスカ州で暮らした頃の体験がきっかけだった。2006年から2010年まで、アラスカ州の大学の芸術科で学んだ。高校生の頃にアラスカの先住民芸術に興味を持ったことから留学しようと決めた。大学の先住民芸術のスタジオでは、教員も学生も先住民の血をひく人がほとんどだった。学期の終わりになると「ポトラック」という持ち寄りの食事会がひらかれ、地方の町や村にルーツを持つ教員や学生は、それぞれの故郷でとれたものや、

p.1|はじめに。

2016年から、国内外各地の鯨にまつわる話を集め刺繍画とともに本に綴ったリトルプレス『ありふれたくじら』を発行しています。 宮城県石巻市と牡鹿半島、米国アラスカ州ポイント・ホープ、和歌山県東牟婁郡太地町、北海道網走市、宮城県気仙沼市を訪ね、2018年末までの約2年間でVol.1〜5を発行しました。ひとつの号でひとつの土地の世界を伝えよう、と考えながら発行した5巻。いずれも捕鯨や鯨猟がおこなわれていたり、鯨への信仰があるなど、人と鯨が身近にかかわってきた土地でした。 現在、