就労継続支援B型事業所に関する調査のこと②

全国精神障害者地域生活支援協議会が、2020年4月に「精神障害者における就労継続支援B型事業実態調査報告書」を出しました。
とても共感できるところの多い報告書だったので、全文読んでいただけたらとも思いますが、主観的に私が特に心に残ったことをご紹介したいと思います。
前回の記事では前段の話で終わってしまったので、いよいよ今回は本題です。

実態調査の趣旨

さて、今回ご紹介する実態調査は、精神障害のある人の作業所を対象にしています。前回の記事でもご紹介したように、作業所の役割は人にとって様々ですが、精神障害のある人は体調などの面から、必ずしも毎日は安定的に通いづらいという場合があります。そこで、
「B型を利用する精神障害のある人は、利用者それぞれが多様な「ゆらぎ」を持ちながら利用している。その利用者の中には「工賃」はもちろん大切でありながらも、「工賃(額)では測れないもの」を求め、利用されている方はいないのか?」(報告書P4)という問題意識から、
「現在の工賃額で事業を評価する報酬が実態に即しているのか」(報告書P4)を調査するというものです。
詳しい内容はぜひ原典にあたっていただくとして、ここからは私の主観で、特に印象深かった記述をご紹介したいと思います。

自分の存在が認められ、望む活動ができる居場所が求められている

B型事業所を利用する方自身が、ここに通うことでどんな効果が得られたか、という評価と、満足度には関連性があるのですが、特に関連性が強く観られたのが、大きい順に
・悩みや課題を共有し、共に悩みサポートしてくれるスタッフや仲間がいることを感じる
・事業所の活動へは体調の良し悪しに関係なく、自分が望む活動を利用・参加することができ、事業所は居場所となっている
・スタッフや仲間が自分のことを認めて、信頼してくれていることを感じる
という項目だったそうです。

一方で比較的関連性が低く出た項目は、小さい順に
・事業所以外の地域社会や遠くの場に出掛け、行事や交流を楽しんでいる
・事業所に通うことで起床・就寝時間、食事時間、事業所利用時間等の様々な生活場面を自分でコントロールし、生活リズムを整えている
・自分が希望する生活の実現に近づくための工賃を得ている。
という項目だそう。(報告書P15)

関連性の低い項目は生活リズムのコントロールなど、良い場合と悪い場合の比較を自分ではしづらいものもあり、関連性が低いから重要度が低いというわけではないと思います。でも、まずはその場に行く大きな動機として、そこが信頼できる居場所であるということがとても重要であるということが分かります。

「満足いく、希望に満ちた人生を送ること」を支えられているか。

この調査は、対象となった事業所を「生活支援を重視」「工賃を重視」「どちらも重視」に分けて、利用者と事業所にアンケートをする形なのですが、利用者にとって、B型事業所で「満足いく、希望に満ちた人生を送ること」を支えられていると感じるかどうかという調査では、「生活支援を重視」「どちらも重視」の事業所の方が、「工賃を重視」の事業所よりも高いという結果が出ています。(報告書P17,18) つまり、
「スタッフが自分の回復に向けて応援してくれていると感じられること、そしてその結果として自分が回復していると感じる、特に「仲間がいる」「居場所がある」「認められている」という主観的感覚が大事だということが明らかになった。「就労継続支援」という名前ゆえに生産や工賃という点がクローズアップされがちであるが、「こうした「応援してもらえる居場所機能」がB型事業所の精髄であることが、改めて示されたといえる。」(報告書P55)
「最終的に重要なのは「どう工賃を上げるか」だけではなく「どう生活が改善するか」なのである。」(報告書P56)

特に重要な個別支援

また、調査結果からは
「集団でどのように応援されるかではなく、「この私をどのように応援してもらえるか」ということが、利用者の満足度を大きく高めている」(報告書P57)という結果も見えてきています。
そして、調査の統括を行った吉田氏は、アンケートを通じ、利用者自身の声が見えてくると言います。
「利用者の方々は「工賃」という一見わかりやすい指標でサービスの満足度を決めてはいない。単純に工賃が高いから満足、工賃が低いから不満という話ではないのである。そうではなく、スタッフが自分たちに時間をかけて目を向けているかどうか、自分たちがそれを受けて成長しているか否かを肌で感じて、そこを軸足にサービスの満足度をはかっている、というのが今回の調査の結果であるといえる。利用者の方々は「工賃」ではなく「サービスの質」を見ているのである。」(報告書P60)

だれのための制度なのか、改めて見つめなおす必要が

私が今回の調査内容をみなさんにご紹介したいなと思ったのは、調査を通底する、関係者の熱い思いが終章にいたって爆発するところに、共感を覚えたからです。いくつかをご紹介しましょう。
「平成29年冬、報酬改定案(加藤木注※事業所に支払われる報酬が平均工賃に基づくようにする改定)が議論された際には、「(生活支援が大切であるという)データを持っていないので検討できない。工賃額で区分することは、誰の目から見てもわかりやすいことなので、、、」という意見があった。今回、このような結果が出たということは、「誰の目から見ても」の「誰」に、本来、一番入るべき利用者が入っていなかったということがいえるのではないか。」(報告書P63)
「「税収を増やしたい」「労働力を増やしたい」といった、財源ありき、経済優先で進める制度設計によって、人の思いや目標がかき消されてはならない。人の暮らしにとっての労働、働くということの意味、価値、役割をもっと広く、深く考える必要がある。」(報告書P63)
「障害のある人たちの様々な暮らし(生き様)を「介護」と「訓練」という極端ともいえる定義づけで2分化し、さらにそれぞれを細分化することで対応しようとした。つまり、世代や特性、価値観、等、障害を持つ方個々の様々な生活場面に対応する仕組みとはいいがたく、人の暮らしを類型化、パターン化することにより、制度から抜け落ちてしまう方が生まれてしまっている。」(報告書P64)
制度はだれのためにあるのでしょうか。それを改めて見つめなおす必要性を感じます。

可視化する重要性

私たちの生活の中でどんな支援が必要なのか、どんな場面で必要なのか、それは簡単に切り分けることはできません。
障害者支援も、例えばヘルパー、通所施設、などそれぞれがある切り口から関わりを持ち始めて、それぞれが様々な生活場面を支えるものだと思います。
作業所の役割を工賃というところに特化して切り取られることは、多くの現場の人が疑問に感じてきたのではないでしょうか。
その点を調査という形、特に当事者の声を可視化した今回の調査報告に敬意を表するとともに、こうした指摘を踏まえた制度改善が図られることを願います。

また、私自身、ソーシャルワーカーとして、目の前にいる当事者にとって何が必要なのかを可視化する責任を改めて感じるところです。


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