就労継続支援B型事業所に関する調査のこと①

全国精神障害者地域生活支援協議会が、2020年4月に「精神障害者における就労継続支援B型事業実態調査報告書」を出しました。
とても共感できるところの多い報告書だったので、全文読んでいただけたらとも思いますが、主観的に私が特に心に残ったことをご紹介したいと思います。

そもそも「就労継続支援B型」って?

報告書の内容に入る前に、そもそもこの分かりづらい名前をした「就労継続支援B型」って何なのか。
名前からすると、働くことを、継続して、支援するんだろうなと。B型というからにはA型があるんだろうなと。じゃあCとかDとかあるのかなと。よくわからないですが。

地域それぞれの独自のとりくみが制度化してきた障害者制度

障害のある人への支援のしくみは、介助者や手話通訳の派遣のように当事者が闘いとってきたものや、学びの場や働く場のように家族や支援者も一緒に考えて作ってきたとりくみなどがありました。
そして、それぞれの地域でのとりくみに自治体が補助金を出す、といった形で運営が支えられてきました。
働く場は、知的障害のある人が学校を卒業した後に働く場、通う場を作ろうという形で進められたり、精神障害のある人が孤立せず体調に応じて働ける場を作ろうという形で進められたりして、「作業所」と呼ばれていました。親御さんが中心になって作った作業所があったり、私の住む練馬区では区立の作業所が多かったりと、地域によってそれぞれ特徴を持って発展してきました。
こうした障害者への支援を国としての制度にしていこうと、2003年に支援費制度、2006年に障害者自立支援法、2013年に障害者総合支援法と形を変えながら実施されてきました。

就労継続支援

「就労継続支援」という類型ができたのは、自立支援法からです。
自立支援法では、障害のある人が日中活動する場を、大きく分けて「障害が重くて介護が必要な人の場(生活介護)」と「働くための訓練の場(就労継続支援)」に分けました。
ちなみに就労継続支援はAとBに分かれていて、Aは労働契約をもとに最低賃金以上のお給料を障害者に支払うところ。Bは労働契約は結ばず、就労に向けた練習をする場として、作業に応じた工賃(現状では月額平均約15000円程度)を払うところ。
今回ご紹介する調査には、こんな説明があります。
支援法が構想された際、就労継続支援事業には、そもそもB型の存在がなかった点は特記すべきことであろう。国が示した支援法(案)の段階では福祉的就労の類型として、就労継続支援事業は雇用関係を伴うもの(すなわち、現在のA型)しか設定されていなかった。それが全国の関係団体等からの強い抵抗により、後から国が追加して作ったのがB型である。つまり、当初想定していなかった利用者との雇用関係を伴わない事業所の移行先として、後付け的にB型という類型が設定されたという経緯がある。」(報告書P64)
こういう経緯があるから、A型とB型だなんていう、名前を聞いただけではよくわからないものになってしまったんでしょうね。
そして、国の制度は基本的に「働くこと=稼げるようになること」が前提になっており、それ以外のことはあまり考えられていないんだろうな、ということが感じられます。

「働くこと=稼ぐこと」だけ?

だけど、働くことって、稼ぐことだけでしょうか?
例えば私は、議員としてお給料をもらっているのですが、そのほかにヘルパーをやったり、いつか通訳になりたいなと思いながら手話を学んだり、シェアハウスを大家として運営したりしています。たくさんの仕事をしていると、忙しいし、必ずしも効率的に稼げるわけではありません。でも、活動を通じて、新しい仲間と出会えたり、「私のやったことで少し助かる人がいたかな」と思えたり、といったことがあるからやっています。
働くことは稼ぐだけじゃなくて、人とのつながりを持ったり、仲間ができて困りごとを相談し合えるようになったり、やりがいを感じたり、自分の役割を感じることができるっていう意味がありますよね。
それは作業所も同じです。知的障害のある人は、こつこつと、約束の日にきちんとお仕事に来る方も多いです。だから作業所は、こつこつと通って働ける場。
精神障害のある人は、体調によっては来られない日も出たりします。そんな中で家に閉じこもりがちになってしまうこともある。でも、体調の良い日は来られる場があって、仲間と出会うことができる。それが作業所の大きな役割。
そうやって、それぞれに、作業所の役割はあります。

制度の中でどう位置付けられるの?

そうやって今まで作業所として運営していたところは、介護と訓練という形で類型化された制度上では、何に位置づけられるようになるのか?「うちの作業所の役割ってなんだろう?」となりますよね。
働く場なのか支援の場なのか、ということは、実際にはなかなか簡単には切り分けられないので、難しいですね。
練馬区の場合には、区立も民間も、ほとんどの作業所は、就労継続支援B型になりました。
でも、地域によっては、生活介護事業所として、ゆったりと活動しながら工賃も払っているというところもあるし、地域活動支援センターという制度上の別類型のものになっているところもあります。

制度の中でくすぶり続ける「稼ぐこと」

「働くって、稼ぐことだよね」という前提でできている制度は、ずっとくすぶり続けています。
今、就労継続支援B型の利用者に支払われる工賃は平均約15000円。月収としてはとても安いですよね。せっかく働きに来てくれる障害のある人たちにできるだけたくさんの工賃を支払いたいということは、どこの作業所だって思います。だから、美味しいクッキーを作ろう、レストランをやってみよう、地元の名物を販売してみよう、絵を描いて商品化してみよう、農業と連携してみようなど、みんないろいろ工夫しています。
だけど、稼ぐのってほんとに大変。就労継続支援B型事業所は、基本的に1日20名以上の障害のある人が通所することで成り立つような制度になっているので、20名以上の人にたくさんの工賃を払うには、それだけたくさん稼がなくてはいけないのです。
そんな中で、国は「たくさん稼いだ就労継続支援B型には、加算をつけてあげるよ」ということをしてきました。そして、2018年の制度改正でついに、事業所に支払う報酬の基準を、平均工賃をいくら払えているかということにしてしまったのです。

工賃だけが基準になっては、困る人も

私が出会ってきた障害のある人には、例えばこんな人がいました。
★Aさんは知的障害があって、若い頃から毎日こつこつ作業所に通ってきた。毎日休まず通って働き続けることがAさんの誇り。だけど、50代になって、体調がすぐれない日もあったり、作業効率が落ちてしまいがち。特別支援学校を卒業したばかりの若い子たちと同じようには働けない。でも、これからも、誇りを持って通い続けたいんだ。
★Bさんは精神障害があって、元気な時には働けるんだけれど、体調が悪い時には起き上がるのもつらくなってしまう。だから、作業所には週何回かしか通えないけれど、作業所に所属をしていることが体調が悪い時にも心の支えになるし、家から出られない時にも心配して連絡してきてくれるスタッフがいることで安心して毎日を送ることができている。
これらの例は、たくさんの障害のある人からお話を聞く中での典型的な例です。
このように、毎日は通えるけどたくさんは働けない人や、体調が悪い時は通えない人は、1か月で稼げる工賃は少なくなってしまいます。だけど、作業所に所属していることが、その人を支えているんですよね。
でも、「工賃をいくら支払えているか」で事業所に対して国から入ってくるお金の額が変わってしまうとなると、作業所は、「工賃をたくさん稼げる人に来てほしいなぁ」と思ってしまうようになるのです。それって、課題じゃないですか?
これが、今回ご紹介する報告書の前提にある課題なのです。

前提を書いているうちに、長くなってしまいました。
いよいよ報告書の内容…といきたいところですが、それは、次回の記事にしたいと思います。

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