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「精神の考古学」:書籍の紹介

「精神の考古学」 中沢新一 新潮社
 
宗教学者、中沢新一氏による1970年代からのチベット密教の
実際の修行の内容について記述されている著作です。

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精神世界のあり方と風土や社会的な環境は不可分であり、
密教の修行をいきなり日本や西欧で行っても
ヒマラヤ地方で行う物とは全く異なったものになってしまうでしょう。
時を経て、その事実を忘れてはいけないと考えるようになりました。
 
1980年代から中沢氏の著作には親しんできました。
「野ウサギの走り」、「雪片曲線論」を何度も読み、
細野晴臣氏との対談集「観光」を常に手元に置いていた
90年代初頭を過ごしました。
この本を読むかどうか、迷っていました。
店頭で内容を確認してからにしようと考えていました。
そして、実際に本を手に取り、読むことにしました。
 
過去にも「虹の階梯」、「チベットのモーツアルト」にも部分的には
修行のことが書かれていましたが、
今回の著作には具体的な修行とその説明が
詳細に記録されています。

本作では、チベット密教の修行にいたったきっかけ、
具体的にどのような修行をしていたのかが書かれています。
そして、在家で修行するとはどういうことなのかが説明されています。
出家しないで修行することがカバラとの比較で書かれており、
密教修行とカバラ修行のちがいなどが理解できました。
 
また、教えを伝えてくれる先生は亡命チベット人であり、
今までの著作よりもチベット人とその宗教がどのような社会背景で
生まれてきたのか、亡命生活とはどんなものなのかが
過去のものよりも分かりやすくなっています。
これが一番大切なことだと思います。
 
チベットをはじめとするヒマラヤ地域では風土が苛烈なため
耕作面積を増やし、蓄財すること、
産業を興して物質的な富を累積していくことが不可能なエリアです。
そのため、余剰となった人間の時間は資本主義的な
富を追求することには使えません。
つまり密教の修行、瞑想し精神を鍛え整えることは
この地域の社会的要請であり、知恵だったのだと思います。
 
チベット密教(ゾクチェン)においては、
神話時代以前の意識の状態を探るのがテーマなのだと
自分なりに理解しました。
中沢新一氏のチベット密教に関しての集大成的な著作だと思います。
 
 
アカデミックな著作では下記があり、
チベット密教の別の側面を知ることができます。
「性と呪殺の密教」 正木晃 ちくま学芸文庫
 

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