漢方診療日記⑥ 湯に溶かして飲んで

 もちろん漢方薬の分類でも、「気剤」と言って気の流れを調整する役目の漢方薬がある。その代表格が「香蘇散(こうそさん)」だ。
 少し気力が落ちた人に処方する。構成生薬(しょうやく)の紫蘇(しそ)の香りがさわやかで私は大好きだ。「神経質で漢方の味がどうしても受け付けないと言われたら香蘇散を出せ」と言われるくらい、万人受けするおいしさが特徴の漢方だ。
 この漢方薬には面白い使われ方がある。風邪の時、咳(せき)や熱などの肉体症状以外に、精神症状として少し気力が弱くなる患者さんがいる。そんな時に香蘇散が役立つのだ。風邪の治療と共に「うつ」も治すのだ。
 一方、風邪を引いても精神的に落ち込まない屈強な人には、別の風邪用漢方薬がある。漢方は心を大切にする。言い方を換えれば、漢方はどんな病気にも気の流れを診て処方を決めるのである。
 漢方と聞いて皆さんは、病院で処方され、番号が書いてある袋を想像すると思う。現在8割以上の開業医が、漢方薬を処方していると言われる。
 でも、漢方を大学で教えることが必須になったのは最近である。ということは、ほとんどの開業医の先生たちは、漢方や東洋医学の教育を大学で必須教育として受けてないことになる。
 私も大学時代には、漢方を学ばなかった。今は私は大学で漢方を教えているので、カリキュラムについて詳しいが、ある程度しっかりした教育がされているので安心だ。
 気の話に戻るが、漢方は本来、いろんな生薬を水に入れ、コトコトと一時間前後煎(せん)じる。そして生薬のカスを捨て、煎じあがった湯液だけを一日数回に分けて服用するのだ。これが本来の煎じの漢方薬なのだ。
 この出来上がった漢方の湯液をフリーズドライにしたのが、皆さんがよく目にする漢方製剤、つまり粉の漢方薬なのだ。
 豆を挽(ひ)いてドリップで入れたコーヒーと、フリーズドライのインスタントコーヒーの違いのようなものだ。科学的なエビデンス(根拠)はないが、私は同じ漢方薬なら煎じた方の味が好きだ。エネルギーがある気がする。
 もちろん、粉の漢方製剤も効果がある。でも、粉のまま水でぐいっと飲むより、一旦(いったん)お湯に溶かして元の状態に戻してから飲んでほしい。インスタントコーヒーを粉のまま飲む人はいないのと同じだ。
 まずは煎じ薬を試してほしい。漢方薬局なら、どこでも置いているはずだ。漢方薬本来の味と香りが楽しめるはずだ。

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