ついに本番!新作能「菖蒲冠(あやめこうふり)」(後編)
本番の2日前に囃子(楽器)を担当する灰野さんから、幕間(前幕と後幕の役者が着替えている間)の音楽の間が持たないので、何か詩を選んでくれと言われました。そこで、大伯皇女(おほくのひめみこ)
この二首を幕間にハープで弾き語ってもらうことになりました。「菖蒲冠」は大伯皇女の話ではありませんが、何か彼女が救われたような気がしました。
5月11日に生田緑地に打ち合わせで行って、少しずつ菖蒲の蕾が膨らみ始めていました。そして6月4日、菖蒲園の管理をされていらっしゃる現代の「花苑司(はなぞののつかさ)」のおかげで、この日に満開になるように菖蒲を育てて下さいました。その満開の情景を前に、言葉では言い表せない感動に心が溢れてしまいました。東屋にいる舞台の人間たちは影となり、菖蒲の花々は降り注ぐ陽の光に輝いていました。
通常ならば、舞台の前にいるのはお客様方なのですが、目の前に広がっているのは満開の菖蒲。じっと見つめると情景が茫然とするのですが、一つの菖蒲だけがくっきりと目に映っているのです。きっとここに、この演目を聞きに来た全ての霊が集まったのだと思いました。シテの役者は亡くなった霊を呼び寄せるのですが、亡くなった霊は、菖蒲の精霊の姿となり、シテは菖蒲となって歌い舞ったのだと思います。
よく言われている「グレゴリオ聖歌と声明のコラボレーション」、それはお似合いのことでしょう。でも今回は、がっつりと声明を定旋律としてポリフォニー(多声部の合唱)によるモテット(宗教声楽曲)を作曲しました。ポリフォーニーの三部合唱も、いわゆる能の詞章を乗せて歌うことができました。
前幕の地謡、そして後幕のポリフォニー、これこそ、日本のポリフォニーで活躍する人たちにしかできないジャンルではないでしょうか?地謡・ポリフォニーの彼らには大変な思いをさせてしまいましたが、新しいミュージシャンの誕生の日でもありました。これからも、新たな作品にのぞんでゆきたいと思います。
「菖蒲冠」に関わって下さった全ての方々、出演者、スタッフ、お客様、この題材を与えて下さった全ての霊に感謝します。
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