金曜日のショートショート04

テーマ「はじめての」

タイトル「初めがあって終わり無し」

実は参加二回目です(一つ目は勇気が無くタグをつけずにTwitterで流しました)。このためにnoteに登録しました・・・・・・。やり方がわかっておりませんのでこれで投稿できるのかしら。



ここはとある一人暮らしの男性の部屋。
目の前には異様な臭いを放つどんぶり。
私はそれを前に頬を引きつらせた。

こんな事になったのはもちろん訳がある。
会社の先輩で営業成績第一位、飄々とした割と顔の良いこの人に、

「お前の意見を是非聞きたい」

と神妙な顔で言われ、何かの仕事で悩み事なのかと思えば、

「友人の居酒屋で持ち帰りのどんぶり試作品の試食第一号頼まれたんだけど勇気が無くて。お前も道連れにしようかと」

と気が付けばその先輩のマンションに初めて連れてこられたのだ。

「ほら、食おう」

そう言いながら私が食べるのをじっと待っている。わくわくとした目をして。
そんな子供みたいな顔、会社でしたこと無いくせに。
なんせ片思いの相手だ。どうしてもノーと言えない。
私はやけになって、納豆や豚肉やらオクラやらこれは何だろうか、というもの混ざったどんぶりにかぶりついた。

「え、美味しい・・・・・・」

「そりゃそうだろ、これから売るって言うんだから不味い物試食させるかよ」

臭いとはうらはらに、実に奥の深い味わいだ。

「気になる点は?」

「見た目。そして臭い。ニンニクかなり入ってますよね?
男性向けには良いでしょうけど女性は無理ですよ。
それもカップルで買いたいとは思わないかな」

「お前交際経験無いのにそういう指摘するのか」

「うっさいですね!」

「でもカップルでも気の置けない相手とならむしろ良いんじゃね?」

「そういうもんですか」

経験山のようにある人は違いますね、と言って食べ進める。

「お前ってさ、ここまで俺と過ごしてなんか思わないわけ?」

「あぁ、使い勝手の良い後輩だと思われてるってのはわかってますよ」

変な生き物展してる水族館に行きたいだの、変わったもんじゃが食べたいだの、
他の女の子とでは一切行かないだろう場所に有無も言わせず私だけは連れて行かれる。
好きな相手ならもっと素敵な場所に行くだろうから、その度にお前は便利だと言われるようで悲しい。
でも好きな相手と過ごせてその人が無邪気に笑う姿を見られる、そんな時間を手放せるわけが無い。

「お前、交際経験無いんだよな」

「タバスコでも大量に入れて差し上げましょうか?」

笑顔でそう言ったのに、先輩は真面目な顔つきになりドキリとしてしまう。

「じゃぁ俺がお前の初めてで、良いよな?」

「・・・・・・話しが見えません」

「ここまで俺の趣味に付き合うんだから、嫌いじゃ無いだろ」

首をかしげると、大きなため息をつかれた。

「俺はお前の初めての彼氏になりたいんだよ。

でも、俺は初めての夫になりたいし、その初めてを最後まで手放す気は無い」

初めて、初めて、という言葉を連呼され、私の頭の中はクエスチョンが飛び交う。

「お前は俺の初めての妻で、最後の妻になるんだよ」

ニヤッと笑った先輩を見て、やっと、何を言ってるのかわかった。
その瞬間顔が一気に熱を帯びる。

「な、何を勝手に!」

「まぁそう照れるな」

「私の意思を聞いて下さいよ!」

「俺のことが好きだってことだろ?問題ないよな」

にこにこと無邪気な笑みを浮かべているけど、唐突な流れと湧き上がる嬉しさに思わず頬が緩みそうだ。

「ほら、お前の初めて彼氏が特別にインスタントコーヒーを入れてやったぞ」

「いちいちしつこいです」

私は楽しそうに笑う初めての彼氏から、大きなマグカップを受け取った。


#小説 #創作 #ショートショート #金曜日のショートショート




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