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『僕の心のヤバイやつ』最終回/中学生の恋で、大人の心が動かされる理由

僕ヤバ最終回を視聴。見る人の心を強くかき回す最終回。心をヤバくさせる物語。改めて「心」について考えさせられた。感じたことをメモしておく。

#ネタバレあり

最終回は特に心を強くかき回された。中学生の恋愛のお話に、なぜこんなに心を動かされるのだろう。私はもう、そういう年齢じゃない。恋愛の仕組みを頭で理解して冷めているはず。でも、この物語は冷めた目で見ていなかった。その理由を考えていて、昔かじったユング心理学のことを思い出した。

●浅いユング知識で僕ヤバを考えてみる
ユングはエモい。ユングはこう考える。市川京太郎の中にも山田的人格が隠れていて、山田杏奈の中にも、市川京太郎的人格がいる。心の中にはたくさんの人格がいるのだ。でも学校のような場所で、人は複数の人格をうまく生きることはできない。だからひとは多くの人格を押し殺して生きている。そしてそれは辛いことだ。ユングはそう考える。そしてこの説明は「私たちのある種類の辛さ」をうまく説明してくれる気がする。心がちょっと軽くなる。そういう「エモさ」がユングにはある。

●市川が生きる、変化の恐怖と向き合う人格(市川的人格)
市川は変化を恐れる人だ。変わることの恐ろしさをよく知っている。
 自分のキャラと違うことに挑戦して失敗して「恐怖」を感じる。
 もう二度とやらないようにしようと心に決める。
それは多くの人にとっても身に覚えがあることだろう。誰にとっても、変わることは「恐ろしいもの」だ。市川はそのことを私たちに思い出させてくれる。多くの人はその「恐ろしさ」を見ないようにして前向きさを維持している。それはつまり、私たちの中にもある「市川的人格」=「恐怖と向き合わされる人格」を押し殺しているということだ。でもそれには弊害がある。本当はもっと後ろ向きな「恐怖を知る自分」がいるのに、その存在を”強く否定”している私たちは「恐怖を感じる自分」を認めることが困難になる。
市川的人格の特徴をまとめるとこうだ。それを生きるのは辛い。でも、押し殺すことの弊害も大きい。じわじわと辛くなる。多くの人格の中でも「取り扱い注意の人格」なのだ。

●山田が生きる、前向きな人格(山田的人格)
山田は変化に前向きな人だ。彼女の親は、挑戦して失敗してもほめてくれる。そんな素晴らしい親のおかげで、前向きな性格に育っている。でも「前向きさ」とは「恐怖への鈍感さ」を内包していて、感受性の高い山田は、そのことへの違和感を感じていたのだろう。それはつまり、市川的人格を強く否定している自分に薄っすら気づいていた、と言うことだ。だから恐怖とちゃと戦っている市川に、どうしようもなく強く惹かれたのだろう。

●私の凡庸な人格(凡庸人格)
僕ヤバに心を動かされる私は、基本的に山田と同じ目線で市川を見ている。自分の中にもいる市川的人格。その人格をちゃんと生きて苦しんでいる市川の苦闘に、心を動かされる。でも山田ほどの感受性が高くない私は、現実世界の市川をうまく見つけることができない。そういう「得難い輝き」を見つけられる山田。その目を借りて私も市川の凄さを心で感じることができる。頭で理解する前に心で感じる。そして今、私は取り残された「頭での理解」に苦労している。付け焼刃のユング知識を持ち出しださないと、納得できない。そういう状態にあるのだと思う。

●市川と山田の恋愛に、年齢関係なく惹かれる理由
市川は山田に出会い、自分も変わりたいと思うようになる。でもそれは、市川的人格を押し殺すのではない。市川的人格と山田的人格の両方を生きるということ。山田の一部を自分にするということだ。
山田は市川と出会い、自分の中の市川的人格を認めることができるようになる。それは、市川が証明した「市川的人格のすばらしさ」と「市川自身が変化できること」のお陰だ。山田には「市川が全部持っていた」ように見える。だから山田にとって市川は「私の全部」なのだろう。
こういうことは成長と呼ばれる。用語的にそれは正しい。でもこれは年齢に関係ない「心の変化」だから、子供から大人に向かう「成長」と言う言葉はふさわしくないと私は思う。だからこの物語は、成長物語と言うより「心の自由さを描いた物語」だと思う。それは年齢とは関係ない。そしてその自由さとは「心が動ける=感動できる」ということでもある。

●結論的なもの
何気なく生活しているとき、私たちの心は動かない。刺激に反応するロボットのように日常の流れに乗って生活している。それでも心は大切だ。いざと言うとき、心だけが自分を助けられる。心だけが誰かを助けることができる。そいうことはたくさんある。だから私たちは心を凍らせてはいけない。動き回らないといけないのだ。そしてそれは市川と山田が、この物語の中で必死にやってきたことだ。私たちは心をヤバくさせることが必要だ。

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