黒江真由の苦しみについて/響け!ユーフォニアム3(12話 #3)
『響け!ユーフォニアム3』12話視聴。一人の中で「正しさ」と「感情」が分裂すること、そしてその肯定(分裂していいんだ)が描かれていた回だと私は考えている。そしてその裏で、黒江真由にも「壮絶な分裂」があった。そこは地味だけど重要なポイントだと思う。12話感想3回目の投稿。自分でもしつこいと思うけど、真由について書いておきたい。ので、思っていることをメモしておく。
私は黒江真由が好きになれなかった。こんな記事も書いた。ひどいよ、俺。
そして12話を見た。真由に謝りたい気持ちでいっぱいだ。彼女は「彼女の地獄」をもがいていた。せめてそのことは書いておきたい。
●黒江真由の損な性格
ソリ争奪戦で自分が勝つと、部員の敵意が自分に向くだろう。黒江真由はそう信じていた。それがどれだけ辛いことなのかも知っていた。そんなの嫌だ。心の底ではそう叫んでいたはずだ。なのにそれでも練習を熱心に続け、辞退もしなかった。音楽が好きな自分にうそをつけない。だから地獄への歩みを止めなかった。これは狂気の沙汰だ。そんな奴いるのか?いや、いるのかもしれない。そう思うと涙が出てくる。なんて損な性格なんだ。
久美子は真由このとを「私に似ている」と言った。確かに久美子も真由と同じ2面性を抱えている。でも、真由の「上手くなりたい気持ち」の強さは異常だ。そこはむしろ麗奈に似ている。でも麗奈とは決定的に違う。麗奈は空気とか敵意なんて気にしないだろう。
●アクセルとブレーキという比喩
「上手くなりたい気持ち」をアクセル、「空気を壊したくない気持ち」をブレーキに例えよう。麗奈は強烈なアクセルと壊れたブレーキをもつ「止まらない車」だ。周りからは多少奇妙に見えるけど、止まらないという個性を貫くことができる。久美子はもともとブレーキが強力で、あとから強いアクセルを手に入れた。だから運転がうまい。ブレーキを緩められるタイミグでアクセルを踏む。運転がうまいから貧乏くじを引く。そういう面はある。でも運転自体はうまいのだ。
●いびつなバランスの真由
麗奈と久美子はそれぞれ「よいバランス」をもっている。一方で真由はかなり「いびつ」だ。アクセルから足を離せない。もともとそういう人なのだ。そして不幸な出来事を経験して、そこからはブレーキからも足を外せなくなった。「アクセルもブレーキも全開のやばい車」なのだ。だから久美子に「苦しい、助けて」のサインを出していた。そんなの誰にもわからんよ。そういう「下手くそなサイン」だったと思う。でもそんな形のサインしか出せなかったのだろう。だって強烈なアクセルとブレーキに引き裂かれていたのだ。平気な顔をしていた真由は、本当は何の余裕もなかったはずだ。
●わかりにくい真由の悲劇
真由は自分のせいで友人が音楽をやめてしまう経験をした。それは確かに辛い経験だが、よくある話だろう。それだけで真由の境遇を悲劇的だ考えるのは間違っている。それでも、それは悲劇だった。それはなぜか。
真由はもともと「上手くなりたいアクセル」を緩めることができない特殊な人だ。恐ろしい未来しか見えないソリ争いからも降りることができない人。見かけによらず鉄砲玉のような奴だったのだ。そしてそこに、自分のせいでやめた友達をずっと気に病んでしまう「ブレーキ踏みまくりの性格」を背負い込んだ。真由の中に、極端に対立する二つの人格を抱え込んだのだ。これは、容易には理解されない悲劇だ。
久美子は持ち前の観察力で真由の本質を理解して、真由を救い出す。それは「正しい人」になろうとする、という方法。それは真由を救い出す同時に、久美子自身を迷いから救い出すことだった。久美子自身も真由も救うという超高難度の方法でしか、真由を救い出すのは難しかったのだろうと私は思う。それくらい真由は「深い闇」を抱え込んでいたのだと思う。
●二つに引き裂かれる人たち
ちなみに、久美子と麗奈と奏はみんな揃って「実力主義」と「一緒に吹きたい気持ち」の間で引き裂かれていた。真由は「上手くなりたい気持ち」と「空気を壊したくない気持ち」の間で引き裂かれていた。登場人物たちは皆、二つに引き裂かれまくりだ。まとめてみよう。
<久美子と麗奈と奏の分裂>
【正しさ】実力主義。いい音を最優先。
【感情】一緒に吹きたい。
<真由の分裂>
【感情】上手くなりたい。
【感情】空気を壊したくない。
こう見ると、みんなの納得する答えは「上手くなりたい感情」と「実力主義の正しさ」で作るしかなさそうだ。それは難しく考えるまでもなく直観的に明らだった結論。けど「引き裂かれる苦しみ」に注目しても、直感と同じ結論に辿り着くのだなぁ、と。
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